日本IBMは8月1日、ハイブリッド/マルチクラウド環境で稼働するアプリケーションのパフォーマンス/可用性監視製品「IBM Cloud Application Performance Management(IBM Cloud APM)」の提供を開始した。同日の説明会では、従来型/クラウドネイティブ型が混在するアプリケーション環境に対応した同製品を含むITサービスマネジメント製品群と、IBMが考えるコンセプトが紹介された。
パフォーマンス障害の検知から原因特定までカバー「IBM Cloud APM」
IBM Cloud APMは、オンプレミス/クラウド環境で稼働するアプリケーション群のパフォーマンスや可用性を一元的に監視し、パフォーマンス障害の原因箇所切り分けやボトルネック分析までに対応する製品。
同社 クラウド・ソフトウェア事業部 製品統括部長の澤崇氏は、「障害や問題の検知から切り分け、根本原因の特定まで、エンドトゥエンドでカバーすること」「レガシー系の(従来型の)アプリケーションからクラウドネイティブなアプリケーションまでを網羅すること」の2点を、Cloud APMの特徴として挙げる。
具体的な機能としては、アプリケーションのディスカバリ、エンドユーザー体験の監視、セグメントごとのトランザクションの自動トラッキング、どのリソースが不足しているのかというパフォーマンス障害時の原因箇所一次切り分け、アプリケーションコード内のボトルネック分析などがある。グローバルに展開するIBMのデータセンター群からスクリプトを使ったプレイバック(自動レスポンス計測)を行い、各地域でのリアルな“エンドユーザー体験”を計ることも可能だ。
IBMでは古くからAPM製品を提供してきたが、今回のIBM Cloud APMについては「製品アーキテクチャの大幅な変更により管理性能が向上したこと」と、「API管理機能の強化など、監視対象としてよりクラウドネイティブアプリに重点を置いたこと」が大きな変化だと、澤氏は説明した。
IBM Cloud APMは、監視対象のWebサーバー/データベース/アプリケーションサーバーなどにインストールするエージェントと、多数のエージェントから情報を収集し、分析、可視化する管理サーバーとで構成される。ライセンスは、利用できるエージェントの種類によってベース版とアドバンスト版に分かれている。オンプレミス導入する場合の標準ライセンス価格(税抜)は、1監視対象VMあたり5万9700円、アドバンスト版は1監視対象VMあたり69万8100円(いずれもエージェント数は無制限)。
オンプレミス/クラウド、レガシー/クラウドネイティブを包括
同日の説明会では、IT運用管理やITサービスマネジメント(ITSM)に関するIBMの考えと、それを実現するソリューション群、およびその役割が説明された。
IBMでは21年前の1996年にTivoli Systemsを買収し、それ以降も継続的に技術投資と買収を続け、市場ニーズに応じたIT運用管理ソリューションを提供してきたと、澤氏は語る。
しかし、それに続けて「システム運用管理における『課題』をユーザー調査すると、スキル不足、自動化、一元管理……と、今も昔もあまり変わっていない」ことも指摘した。すなわちこれは、「われわれ(IBM)も含め、日立や富士通など主要ベンダーが提供する運用管理ソフトウェアが、実態としてユーザーの課題を解決できていない」ということなのではないか、というのが澤氏の見方だ。
課題の背景にはクラウド化の潮流もある。アプリケーションインフラは、オンプレミス(プライベートクラウド)とパブリッククラウドが混在するハイブリッド構成が主流になりつつある。加えてアプリケーション自体も、「信頼性」が要求されるトラディショナル(従来型)なもの、「スピード」「アジャイル性」が要求されるクラウドネイティブなものの、両方を扱わなければならない。ITサービスの安定的で効率的な運用、という同じ目的を目指しつつ、性格や要件の異なるインフラ/アプリケーション群を統合管理する必要があるわけだ。
「もともとトラディショナルな環境にあった『普遍的な課題』が、スピード化、大規模化するハイブリッドクラウド環境に移行することで、さらに顕在化してくる」(澤氏)
こうした複雑な状況に対して、IBMでは3層に分かれた製品群によって、包括的なソリューションを提供しようとしている。システム状況と顧客体験をリアルタイムにモニタリングし安定稼働につなげる「監視層」、監視層から上がってくる膨大なイベント情報を統合し、分析や学習を通じて運用管理の自動化を進める「統合層」、そしてITIL準拠の厳格なプロセスに基づく運用業務を実現する「運用プロセス層」だ。
ただし、この3層には“+α”がある。前述のとおり、クラウドネイティブなアプリケーション環境においては、継続的デリバリを実現しながら、速いスピードで問題に対処していくことが求められる。そこでもうひとつ、標準化と自動化をさらに推し進めた「アジャイル運用」が追加される。
ここで、監視層には前述したIBM Cloud APMのほか、統計解析と機械学習によりシステム異常を自動的に早期検知/予測できる「IBM Operations Analytics Insights」が、また統合層には監視層から上がってくる膨大な情報をコントロールし、学習によってアラートやエスカレーション、判断などの処理を自動化できる「Netcool Operations Insight」が、それぞれ提供されている。
Analytics Insightsでは時系列データを解析し、平常時の挙動を自動学習することで異常(アノマリー)を検知できるほか、IBMがプリセットしている数種のモデルも利用できること、またNetcool Operations Insightでは、周期的に発生するイベントのパターンや関連性のあるイベントのグループを理解するので、無駄な情報の通知が抑制されて「本当に必要な情報が、適正量だけ担当者に流れる」と、澤氏は説明した。
なお、同日は紹介されなかったが、運用プロセス層にはITIL準拠の運用プラットフォーム「IBM Control Desk」がある。
加えて、クラウドネイティブなアプリケーションのアジャイル運用向けツールとして「IBM Cloud Event Management」の開発意向を発表している(現在Bluemixでベータ提供中)。スピードが求められるこの環境では、特に自動化と優先順位付け、開発者/関係者間でのリアルタイムなコラボレーションに基づく対応が重視されている。具体的には、監視層から上がってきたイベント情報に対応してRunbookに基づく標準化された自動対応を実行するとともに、障害情報などはSlack上で共有され、関係者間でコラボレーションしながら解決を図るアプローチをとっている。
最後に澤氏は、オンプレミス/パブリッククラウド、あるいはトラディショナル/クラウドネイティブというのはあくまで一視点からの区分であり、「たとえばクラウドネイティブなアプリケーションであっても、厳格な運用プロセスを回したい、というものもある」と説明。こうした複雑な要件が生じる環境こそがハイブリッド環境であり、あらゆる要件に対応する運用環境を構成できる点が、IBMの運用管理ポートフォリオが持つ最大の強みだとまとめた。