今回のことば
「2016年5月に発表したときには多くの人にLumadaとはなんだといわれた。だが、1年で知名度があがってきた。トップタレントも集まってきた。大型の追加投資を検討し、売上げ、収益の拡大を目指す」(日立製作所の東原敏昭社長兼CEO)
日立製作所は、2018年度を最終年度とする「2018中期経営計画」に取り組んでいる。
初年度となる2016年度の連結業績は、売上収益は前年比8.7%減の9兆1622億円、営業利益は7.5%減の5873億円、税引前利益は9.3%減の4690億円、当期純利益は14.7%増の2312億円となったが、「売上高は事業再編影響および為替影響を除くと前年比3%増。調整後営業利益は同じく13%増になり、営業利益率は6.4%になる」(日立製作所の代表執行役執行役専務兼CFOの西山光秋氏)とし、実質的には増収増益となったことを示した。
実際、売上高では為替影響でマイナス4900億円、空調事業や日立キャピタル、日立物流の再編でマイナス7900億円の影響。調整後営業利益では、それぞれマイナス730億円、マイナス550億円の影響があったという。
また2017年度の通期業績見通しは、売上収益が前年比1.2%減の9兆500億円、営業利益は7.3%増の6300億円、税引前利益は21.5%増の5700億円、当期純利益は29.7%増の3000億円。ここでも「事業再編の影響、為替の影響を除くと売上高では3.5%の増収、調整後営業利益では15%の増益になる」とする。
日立製作所の東原敏昭社長兼CEOは「2016年度は成長に向けた地盤づくりを行なった1年だったが、2017年は成長に向けてギアチェンジをしたいと考えている」とコメント。そして「2018年度は利益を収穫できる社会イノベーションの完結フェーズになる」と、最終年度に向けて成長戦略を加速することを目指す。
さらに「次期中期経営計画では、日立と聞けばイノベーションパートナーであると、世界中で認識される企業になることを目指す」とし、「そのためには、Lumadaを核にして、事業を推進することになる」とする。
実績が積みあがってきたLumada
Lumadaは日立製作所が展開するIoTプラットフォームであり、日立が推進するデジタルソリューションにおける協創モデルの基盤に位置づけられている。日立グループに蓄積したアナリティクス、人工知能、共生自律分散、セキュリティーといった基本機能群を活用。顧客とパートナーのシステムをつないで、顧客の課題分析や仮説の構築、プロトタイピングと価値検証、ソリューションの提供および運用をすることで、ソリューションを迅速に、協創するためのプラットフォームだと説明する。
「LumadaはグローバルトップレベルのIoTプラットフォームであり、現在IoT分野のトップタレントで構成される開発チームを、米国中心に270人のフロント体制として設置している。2016年5月に、米シリコンバレーでLumadaを発表した際には、多くの人に『Lumadaとはなんだ』といわれたが、この1年で知名度もあがってきた。それにともない、日立のやり方に興味を持つ人が増え、トップタレントが集まってきた」とする。
同社では、Lumadaのグローバル展開加速に向けて、各ビジネスユニットに「Chief Lumada Officer(CLO)」を設置しており、Lumadaを中核に据えた事業展開を推進しているところだ。
さらに、「知見を再利用可能なソフトウェアとして、ソリューションコアを拡充している。日立のLumadaが高い評価を得ているのは、提案からデリバリーまでを、一貫して提供できる点にある。OTとIT、プロダクトを持っており、鉄道事業であれば、鉄道車両から制御や運用、ICチケッティング、デジタルサイネージまでのすべてを提供できる。また、オープンエコシステムにより、パートナーとの協創により迅速に顧客に価値を提供することができる」とした。
2016年度末時点でのLumadaのユースケースは203件となり、第4四半期だけで新たに13件増えたという。「203件のうち、日本が4割強、欧米で4割強。アジアおよび南米で1割強」と、グローバルでの採用が増えていることを示す。
ユースケースのなかでは、流通分野の事例において顧客単価が15%増に、物流分野では生産性が10%向上、コールセンターでは受注率が27%向上した例があるという。
第4四半期に増加した13件のなかでは、送風機のICT運転制御による下水処理制御システム、製造業向け製品不良予兆診断・監視システムなどのソリューションが追加されたという。
もう少し具体的に、Lumadaの成果を見てみよう。
4つの分野で事例を披露
アーバン分野においては米PENSKEがLumadaを活用。24万台のトラックと約1000ヵ所のサービス拠点を管理し、車両稼働率や安全性、コンプライアンスの向上とともに、顧客に対するきめ細やかな車両情報の提供が可能になったという。また、英国の鉄道会社においては、遠隔による状態監視と、異常なセンシングデータを分析。故障モード解析に基づく次世代メンテナンスの実施のほか、部品交換サイクルの延長と、在庫とサプライチェーンの最適化により、定時運行や安全快適な運行、利用者のQoL(Quality of life)の向上などにつなげることができるという。
産業分野ではダイセルの播磨工場において、画像解析システムと製造実行管理システムを連動。品質保証効率の改善に成功したという。今後、グローバル拠点に展開することで、画像データを活用した傾向監視、予防処置を通じて不具合の未然防止に努めるという。
また金融分野では、シンガポールのFintechサービスにおける実証実験を開始。小切手の電子化などに取り組んでおり、ここではブロックチェーン技術の活用による課題抽出と実装を検討しているという。
さらにヘルスケア分野向けには、機器販売だけでなく画像診断センターの運営支援、IT活用による病院運営コスト削減など、病院経営を含んだ案件も発生しており、地域全体の医療の質的向上や病院の収益向上などを実現するとしている。
なお日立製作所では、「電力・エネルギー」、「産業・流通・水」、「アーバン」、「金融・公共・ヘルスケア」の4つの分野に対して、Lumadaの展開を強化する考えを示している。
目指すは全社売上高の約1割
日立製作所は、先頃開催された2016年度連結業績発表において、Lumadaの売上高を初めて公表した。
これによると、2016年度のLumadaの売上高は9000億円。そのうち顧客データをAIやアナリティクス活用により、価値に変換し、顧客の経営指標改善、課題解決を図るサービス事業を指す「Lumadaコア事業」は1200億円。Lumadaコア事業が牽引するIoT分野のSI事業(産業・社会インフラ系)を指す「Lumada SI事業」は7800億円に達したという。
また2017年度の売上げ見通しは、Lumada事業全体で9500億円。そのうち、Lumadaコア事業で1900億円、Lumada SI事業で7600億円を見込んでいる。事業部門別では、9500億円のうち、情報・通信関連で約75%、産業、流通、そのほかで約25%の構成比になるという。
東原社長兼CEOは「2016年度と2017年度はインキュベーションモードの案件があり、それに対する費用も発生している。また、PoCの段階のものも多々ある。そのため、利益はそれほど大きくはない。だが、2018年度にはかなり貢献すると見込んでいる。利益率は2017年度以降には、全社平均よりも高い水準を見込んでいる」(日立製作所の西山光秋専務CFO)とした。
同社では営業利益率8%を目標としており、Lumadaは、それを実現するためのエンジンになる。
そして東原社長兼CEOは2018年度には、Lumada事業で1兆500億円を目指す計画を明らかにし、全社売上高の約1割をLumada事業で占める考えを示す。
「今後も追加の大型投資を検討し、売上げ、収益の拡大を目指す」と東原社長兼CEO。Lumadaの事業成長が、日立の2018中期経営計画の肝になっている。
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