前回のU.S.Roboticsを買収したのが3COMという話をしたが、今回はその3COMを紹介したい。
3COMは、Bob Metcalfe博士が1979年に設立した会社である。ただMetcalfe博士は、3COMの創立者というよりは、むしろイーサネットを発明したことで有名なので、話はこちらから始めよう。
イーサネットを発明した
メトカーフ博士
話はARPANETまでさかのぼる。ARPANETは世界初のパケット交換式のネットワークであり、現在のインターネットのご先祖様と言っても差し支えないはずだ。
このARPANETの創生当時の話は連載342回で触れたが、当時BBNに在籍していたJ.C.R.Licklider博士が書いた1960年の論文をヒントに、Ivan Sutherland氏とBob Taylor氏の2人が中心になって開発したものである。
ARPANETそのものは1970年3月に運営が始まり、1970年末には29台、1875年には57台のIMP(要するにルータだ)が相互接続され、1981年までに200台以上のホストがARPANETに接続されていたという。
さて話をMetcalfe博士に戻そう。Metcalfe氏(まだ博士号は取得していない)は1964年に高校を卒業し、マサチューセッツ工科大学に進学。学位取得後、大学で行なわれていたMACプロジェクトに参画、ここでマサチューセッツ工科大学がARPANETと接続するシステムの責任者になっている。
当時Metcalfe氏はARPANETに関する博士論文を書いてハーバードに出すものの落第。MAC Projectの後でMetcalfe氏はXeroxのパロアルト研究所に勤務する。
ここでハワイ大学が開発していたAlohaNet(こちらはイーサネットのご先祖様とでも言うべきネットワークシステム)の論文と出会い、それをテーマとした博士論文を書いて、今度はハーバード大から計算機学科の博士号を授与されるに至る。
そのMetcalfe博士が、博士号を得たのと同じ1973年に、パロアルト研究所の同僚だったDavid Boggs氏と共同で生み出したのがイーサネットである。
“Alto Ethernet”というタイトルのメモを研究所内の回覧に回したのがイーサネットの誕生につながる。1973年中に、このメモで記したアイディアから、同年中に最初のイーサネット(3Mbps)が誕生した。
ただイーサネットそのものは言ってみれば物理層のみであり、その上位のネットワーク層がない。そこで2人はPuP(PARC Universal Packet)という上位のネットワークを1974年末までに開発する。これは最終的にXNS(Xerox Network Systems)に進化することになった。
発明にXeroxの経営陣が無関心
Xeroxを辞職し3COMを創業する
さて問題は、イーサネットやPuPといった大発明に、Xeroxの経営層がまったく無関心だったことだ。それに嫌気が差したMetcalfe博士は一旦パロアルト研究所を離れるものの、翌年再び戻ってきてしばらくはXNSの開発に勤しむ。
これは1978年に完成するものの、この時点でもやはりXeroxの経営陣は無関心であった。最終的に博士はもう一度Xeroxを辞職。今度は戻らずに、代わりに3COMを創業する。
3COMは、3つのCOM(Computer、Communication、Compatibility)を実現するという意味を込めて命名された。目的はその名前の通り、すべてのコンピューターに、互換性のあるネットワークをつなぐというもので、当然博士が開発してきたイーサネットを普及させるべく立ち上げた会社と考えていい。
おもしろい話であるが、3COM創業の「後で」、XeroxはDECとインテルに対してイーサネットの特許を提供し、これを業界標準化する動きを見せている。
とはいえ、まだ当時はマイコンといえばApple IIやTandyのTRS-80の時期で、IBM-PCが投入されるのは翌1981年なので、当初のターゲットは当然ミニコン以上となる。
その意味ではDECやインテルといったメーカーとXeroxが組んだのは妥当な判断だったと思うのだが、もう少し早ければそもそもMetcalfe博士が外に出ることもなく、ひょっとすると3COMが行なったビジネスをXeroxが総取りできた可能性もあったわけで、このあたりの判断は難しいところだ。
この連載の記事
-
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第789回
PC
切り捨てられた部門が再始動して作り上げたAmpereOne Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第788回
PC
Meteor Lakeを凌駕する性能のQualcomm「Oryon」 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ