リアルなメディアにはナマモノも来る
橘川 ロッキング・オンは4人で作ったんだけど、4人バラバラでほとんど編集会議したことがないんだよ。
西牧 ええーっ。
橘川 みんなで編集会議すると潰れちゃうから。
四本 喧嘩になるんだってさ。
橘川 だから、個別には付き合うんだけど、全員で方向性会議なんかしない。まあ、それも途中から変わっちゃうんだけど、俺らは演奏もできないし歌も下手だ。でもロックがやりたい。だから俺らは言葉でロックをやるんだという、そういう話でロッキング・オンは始まったんだけどな。
四本 1970年代は音楽雑誌というより思想誌っぽい感じだったよね。
橘川 だから、おまえらも参加しろと。ロックファンによるロックファンのためのロック雑誌だったからな。それで投稿雑誌のはしりをやっていたわけだ。俺がチェックして渋谷と相談して原稿の採用を決めると。そこに北海道の高校生だったクソガキの四本が投稿してきたりして、だんだん伸びてきたわけだ。四本は読者人気で俺より上だったんだから。そしたらすごいよ、投稿以外にもいろんなものが来るんだ。
西牧 と、申しますと。
橘川 俺の家が写植屋兼編集部でさ、俺は1970年代にロック雑誌の編集部に住んでいたんだよ。するとね、夜中にラリパッパのお兄ちゃんが来てさ。ドアをドンドン叩くしさ、なんかお巡りさんは来るわ、「こちらにうちの娘は来ていませんでしょうか」と親は来るわで。
西牧 あららら。家出少女まで。
橘川 お母さんに「ロッキング・オンに行くとか書き置きがあったんですか?」と聞いたら、なんの書き置きもなく消えちゃったと。でも机の上にロッキング・オンが一冊置いてあった。手がかりがそれしかない。それで編集部に来たわけだよ。美しい話でしょ。
西牧 ううーん、それはどうでしょうか。
橘川 まあ、そういう対応を俺が全部やっていたわけだよ、一人でさ。それも一種の参加型だな。ちょっと電波の入った電話もいっぱいあるし、カミソリも送られて来るし、いまのネットにあるようなことは全部あったわけだ。お母さんや警察も含めてね。
西牧 原稿だけではなく。
橘川 リアルも来るわけですよ、ナマモノが。
四本 ネットでデジタルだと、まだ3Dプリンタのデータがやっとだもんね。
パンクが出てきてロックから離れる
橘川 まあ、そうやってロッキング・オンを続けているうちに、岩谷宏がデヴィッド・ボウイというのを紹介して、ほらすげえと。
四本 ミーハーなねーちゃんが騒いでいるだけのケバいアイドルかと思ったら、歌の中身がまるきりメディア論だったと。
橘川 それで俺らはデヴィッド・ボウイ狂になったわけだ。そして1970年代の後半になってパンクの時代になるんだけど、初めはよくわからなかったんだよ。ピストルズとかクラッシュとかさ。俺はブリティッシュ・ロックから入ってクラウス・シュルツみたいなドイツの音楽とか、1970年代的な時代感覚の中で、そんなのばっかり聴いていたから。パンクがなにかすごいというのはわかるんだけど、なんですごいのかよくわからなかった。
四本 はい、ここから大事な話ですよ、西牧くん。
西牧 あ、はい。
橘川 でも考えてみると、彼らはロックの始まりの時代を見て、デヴィッド・ボウイなんかの影響を受けて育った次の世代なわけですよ。だから、それまでの社会的なムーブメントが商業化してビジネスになっていったことに抵抗があって、もう一回ちゃぶ台をひっくり返したわけだな。そんな風にパンクが出てきて、俺もロックという商業主義的な音楽はこれで限界だろうと。それでロックから離れようと考えたわけね。音楽以外でもロックができるんじゃないかと思ったんだ。
西牧 それでロッキング・オンを辞めるんですか?
橘川 でもミニコミ以降ロッキング・オンに至るまでの、読者投稿や参加型という仕組には可能性を感じたんで、渋谷にさ、ロックを外そうと。ロックを外した投稿雑誌をやろうという話を持っていったんだ。
(それではここでデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」をお聴き下さい。続きはまた来週!)
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ロッキング・オンの時代 |
橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
11月19日発売
渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ
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