今回の業界に痕跡を残して消えたメーカーは、まだ現存している企業ではあるのだが、PC互換機という市場の成立にとてつもなく大きな功績を残したと言う意味では欠くことができないPhoenix Technologiesを紹介する。
最初はBIOSではなくOSメーカーだった
Phoenix
Phoenix Technologies Ltd.はNeil J. Colvin氏により1979年に創業された。Phoenixの前に、Colvin氏はXitanというソフトウェア会社(なんでも当時、世界で4番目のマイコンの会社だったらしい)を作り、ついで1978年にはK-Systemという会社を興している。
Xitanは一応分類的にはソフトウェアの会社だが、時期的にはまだマイコンという市場が立ち上がったばかりの時期で、メジャーな製品はMITSのAltair 8800やApple Computer程度だった時期なので、実際にはソフトウェアだけではなくハードウェアの製造も手がけていたらしい。
続くK-Systemでは、こうしたシステム向けのコンパイラの開発と販売を行なったらしいが、どちらもあまりうまくは行かなかったようだ。ただそうした失敗にも関わらず、再び会社を興すにあたって“Phoenix(不死鳥)”という名前を付けるあたりが、Colvin氏の負けん気をうかがわせる。
そのPhoenix Technologiesでは最初の社員としてXitan時代の従業員だったDave Hirschman氏を雇いいれてオペレーションを開始する。当初のビジネスはDOSであった。同社はSCP(Seatle Computer Products)から同社の86-DOSのライセンスを取得し、これをカスタマイズしたPDOS(Phoenix DOS)という製品を販売した。
ターゲットは1981年に発売されたIBM-PCである。ただIBM-PC向けには、同じくSCPからライセンスを受け、これをカスタマイズしたマイクロソフトのMS-DOSが主流になってしまい、PDOSそのものの売上は芳しくなく、ビジネスとしてはうまくいかなかった。
同社は同時期に、単にDOSだけではなくエディターであるPMateやC言語のランタイムライブラリーであるPForCe、リンカ(コンパイルしたプログラムを実行モジュールにするためのツール)であるPLink-86、スクリーンデバッガーのPfix-86といった開発ツールも提供するが、これもまたおもいっきりMS-DOSのビジネスと被ることになり、この時期は目立った売上はたっていない。
同社の売上が飛躍的に伸びたのは、互換BIOSの開発に成功してからである。連載367回のCOMPAQの時にも説明したが、IBMはBlue Bookの中でIBM-PCのすべての回路図を公開することで、拡張ボードメーカーやソフトウェアメーカーなどの便宜を図った。
この中にはBIOSのソースコードも含まれており、特にボードメーカーはこの情報を利用して自社の製品の開発が可能になったわけだが、PC互換機を作ろうとするとこのBIOSが公開されていることが逆にボトルネックになった。
BIOSコードそのものは著作権で保護されており、そのまま流用するわけにはいかないためだ。また互換機メーカーの中にはIBMからこのBIOSのライセンスを受けて製造するところもあった。国内では松下電器産業がIBMからライセンスを取得している。しかしライセンスは高価であって、松下のような大企業はともかく中小メーカーにはなかなか支払える金額ではなかった。
COMPAQはBIOSを自社開発することに決めたが、同じように互換BIOSを開発して売ればビジネスになる、という決断を早い時期にColvin氏は行なったらしい。正確な時期は不明だが、IBM-PCが発売されて間もない時期に、同社はBIOSのリバースエンジニアリングと、これに基づく互換BIOSの開発を始める。このリバースエンジニアリングチームを率いたのがHirschman氏だったそうだ。

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