SAPジャパンは12月8日、インメモリコンピューティングプラットフォームの最新版となる「SAP HANA 2」の提供を開始した。同日の発表会では、HANA 2で追加された新機能やターゲットなどが説明されたほか、HANAマイクロサービス、無償版の「HANA Express Edition」といった新たな提供製品も紹介された。
“最新機能”と“安定稼働”の要望に応え、2つのバージョンに分岐
発表会ではまず、SAPジャパン バイスプレジデント プラットフォーム事業本部長の鈴木正敏氏が、HANA 2のリリースに至った背景を説明した。
SAPではこれまで、HANAにおいて、年2回のペースで新機能追加を伴うSPS(サポートパッケージスタック)をリリースしてきた。最終バージョンは、今年6月にリリースされた「HANA SPS 12」である。しかし、SAPのサポートポリシーでは、パッチを提供する対象は「最新リリースの1つ前のリリースまで」となっていたことから、それまでのSPSのサポート期間は実質的に8カ月間程度に制限されていた。
しかし、HANAを採用する顧客とシステム領域が拡大し、最新テクノロジーや機能の追加よりも既存アプリケーションの安定稼働が求められるケースも増えたことから、安定稼働バージョンとして従来のHANA(“HANA 1”と呼ぶ)の長期サポートも並行して行うことになった。
具体的には、HANA 1はSPS 12までで新機能追加を終え、2019年5月までをサポート期間としてパッチ提供(バグフィックスなど)を続ける。一方で、HANA 2は、年2回のSPSリリースを通じて新機能の追加を継続していく。
なお、すでにHANA 1(SPS 10~12)上で稼働しているアプリケーションは、直接HANA 2環境に移行することができる。
データベースの負荷分散、大容量データのティアリング改善などHANA 2新機能
SAPジャパン エバンジェリストの松舘学氏は、今回のHANA 2では「データベース管理」「データ管理」「分析インテリジェンス」「アプリケーション開発」の、大きく4つの分野において新機能追加などの進化があると説明する。
データベース管理において、松舘氏が「特に大きい変更点」だと紹介したのは、読み出しワークロードの負荷分散を行う「Active-Active Read Enabled」機能だ。これは、データベースのレプリケーション先(セカンダリDB)からのRead(データ読み出し)を可能にし、ワークロードを振り分けることで、リソースを無駄にせずレスポンスを向上させるもの。
そのほか、ワークロードのクラス分類による優先度付け、ログを含むすべてのデータ暗号化、「HANA Cockpit」の改善といった機能拡張も行われている。
データ管理の領域では、HANA向けのモデリングツールが新たに提供されるほか、大容量データのインメモリ/ディスクへのティアリング機能の改善などがある。
分析インテリジェンスにおいては、これまで70程度あったアルゴリズムに8つが追加されて予測解析が容易になった。そのほか、テキスト分析、検索、グラフビューワーの各機能も強化されている。
アプリケーション開発分野においては、アプリケーションサーバーでフロントエンド系言語(PHP、Python)の言語パックが追加されたほか、Web IDEの提供などの新機能がある。
無償版「HANA Express Edition」と「HANAマイクロサービス」も発表
今回はHANA 2の提供開始に合わせて、開発者向けの無償版HANAである「SAP HANA Express Edition」と、HANAが備える特定の機能をAPI経由で提供するサービス「SAP HANAマイクロサービス」の提供もアナウンスされている。
HANA Express Editionは、メモリ容量32GBまでの環境で無償利用できるHANAプラットフォーム(有償で最大128GBまで拡張可能)。SAPではこれまでもクラウド環境上で無償版を提供していたが、今回はオンプレミス向けのソフトウェアとなる。松舘氏は「最低16GBのメモリを搭載していれば、ラップトップでも利用できる」と説明した。なお、HANA 2バージョンも近日中に提供が開始される予定。
またHANAマイクロサービスは、ユーザー自身がHANA環境をホスト/運用することなく、HANAの特定機能を他のアプリケーションからAPI経由で利用できるマネージドサービス。「SAP hybris as a Service(YaaS)」上で提供され、API呼び出し回数などに応じた利用量課金モデルとなる。現時点では、アップロードされたファイルに対するテキストマイニング、ジオデータからESA(欧州宇宙機関)の衛星写真イメージを取り出せるアースオブザベーション、といったマイクロサービスの提供がスタートしており、今後さらに拡充していくと述べた。
HANAは顧客の「デジタル変革」を支えるプラットフォーム
SAPジャパンの鈴木氏は、HANA初版がリリースされてから6年が経過するなかで、SAP自身も「イノベーションのジレンマ」を乗り越えるべくHANAへの投資を強化し、その結果、これまでの主力だったERPビジネスの比率は全体の半分以下になっていると説明。現在では、HANAテクノロジーがSAPのソリューション全体を支える存在にまでなっていると語った。
「HANAベースでアーキテクチャを書き換えた『S/4 HANA』を中核的な“デジタルコア”に据え、SAPや他社のクラウドソリューション、既存の顧客アプリケーションといったものを柔軟に連携し、活用可能にする。これが顧客のデジタル変革を実現するSAPソリューションの全体像であり、それを支えるのがHANAのプラットフォームテクノロジーだと考えている」(鈴木氏)
また鈴木氏は、HANAプラットフォームや「HANA Cloud Platform(HCP)」のユースケースは「5つのタイプ」に分類できると説明した。S/4 HANAの基盤はもちろん、S/4 HANAのアドオン基盤、HCPも活用したクラウドアプリケーション基盤、HANAマイクロサービスを利用したより新しいタイプのアプリケーション、顧客が保有するカスタムアプリのモダナイズ基盤の5つだ。
この5つのタイプそれぞれの利用について鈴木氏は、S/4 HANA基盤は「スタンダードとして定着している」ほか、今年最も伸びたのは「カスタムアプリのモダナイズ基盤」としての利用だと語った。さらにS/4 HANAのアドオン基盤、クラウドアプリケーション基盤としての利用も、今年、急伸したと言えるのではないかとしている。