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週刊キツカワ 第4回

3号「新しい技術とメディア」

新しい技術を使って儲けるために知っておくべきコツ

2016年12月10日 12時00分更新

文● 四本淑三

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新しい技術に最初に飛びつけば勝つ

橘川 だから俺のところにサラリーマンやってた大学の友達が来てさ「おまえいいなあ、俺もやるよ」って、独立して始めたやつもいるわけだ。お客がいれば一人でも創業で来た。ところが、最初は言いなりだった発注者も、そのうち「お前これ5000円って言ったけど、あそこは3000円でやったぞ」と言ってくる。

西牧 価格競争が始まるわけですね。

橘川 しばらくするとDNPとかトッパンのような大手が、工員を養成して工場にして、業界相場が決まってくる。印画紙一枚いくら、一文字いくらってね。すると生かさず殺さずの価格になってくる。それで、俺は止めちゃったわけだよ、先がないなと思って。続けたやつはそこから地獄が始まる。

四本 いつの時代も同じですな。

橘川 新しい技術がでてきたら、それで最初に仕事をやるのが一番儲かるんだよな。その10年後に起きた、1980年代の第一次ベンチャーブームもそうだっただろ。

四本 パソコンの時代ね。

橘川 初めはさ、プログラムなんか誰も組めなかったわけだよ。そのへんのパソコン少年の組んだものが、動いただけでカネになったんだ。アスキーなんかはそれで儲けたんだよ。でも、その新しい動きが終わったのに、それに気づかず続けると地獄に落ちるわけだよ。

 

西牧 一度落ちましたよね。

四本 一度だけじゃないんじゃないかなー。

西牧 ……。

橘川 そして1995年にウェブが始まるんだよ。ホームページっていうのをアメリカでやってるぞと。それを作りたいという大手の会社が出てきて、代理店がコンペやるんだけど、そのホームページというものは一体誰が作るのかと。すると慶応の学生とかさ、パソ通やっててMac持ってて遊びでHTMLを組んでたデザイン事務所の連中に仕事が来るわけだ。それでトップページが重たくて動かないようなのが1ページ50万円とかな。今そんな値段言ったら殺されるよ。広告やってたデザイナーが最初のプレイヤーだったから、広告料金の相場で最初は値付けされたんだな。

四本 懐かしいなー。ダイアルアップ接続で、モデムの速度も56kbpsの時代ね。どこのメーカーとは言わないけど、一枚絵をクリッカブルマップにして、次の絵を読み込むのに何分も待たされるようなのとか、あったよね。

橘川 それでカネになるからって、ウェブできるやつを抱えて制作会社にしちゃったやつは、低価格競争が激しくなった上に新しいシステムを要求されて、いま地獄じゃない。そうやって新しい技術が出てきたとき、最初に飛びつけば勝つ。でも、しがみつき続けると地獄に落ちる。これまでの人生で、私はそういうことを学びました。

西牧 はははは!

四本 それが今回のオチですか。でも、ウェブの後はないよね、そういう話。

橘川 ない。俺も写植のときだけだよ、儲かったのは。

西牧 でも、次はなにかがわかると、また儲かるんじゃないですか?

橘川 次はいいんだよ、俺はわかってるから。まかしてくれよ。

四本 じゃ、その話は後で。

橘川 後でな。よし、話を戻そう、参加型メディアの話に。

わかってる男、橘川幸夫66歳

(次回に続きます)

Image from Amazon.co.jp
ロッキング・オンの時代

橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
11月19日発売

渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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