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さくらの熱量チャレンジ 第9回

karakuri productsの松村さん、さくらフェローの小笠原さんと熱量対談

タチコマが実現する日、さくらはロボットのインフラを作っている

2016年11月22日 10時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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ロボットのためのバリアを壊さないと社会に入っていけない

オオタニ:はい。では、最後のパート3では「ロボットが社会に溶け込むインフラ」というテーマで、ロボットと共存できる世界を語りたいと思います。先ほどの話で出たように、松村さんはロボット本体を作っているだけではなく、ロボットが違和感なく社会に溶け込むための実証実験をやっています。

松村:そうですね。実験というより、社会実装と呼んでいるんですが、製造分野で使われていたロボットを、非製造の領域でも使えるようにしていこうという意図です。そのためのインフラを作っていこうと。

たとえば、車って買ったらそのまま公道を乗って帰れるわけですよ。対向車と接触もせず、事故にもならないし、周りの人も社会の中で自分が車に乗っていることを認識するわけですよね。技術面で確立されているのはもちろん、子供でも車という存在を認知している。現状のロボットと自動車を比べたら、自動車の方が全然複雑です。

でも、ロボットはそういう社会的な認知や物理的なインフラがない。そのういうロボットに対するバリアを壊してあげないと、ロボットは社会に入っていけない。ロボットとともに生活しやすい環境を作っていこうというのが、プロジェクトの1つの目的です。そのビジョンの語り部として、タチコマを採用したわけです。

オオタニ:社会的に認知してもらう環境を作るという意味では、やはりロボットが普通に存在している、もっと言えば普通に買えるみたいな状況が必要ですね。

松村:当然、実用化すればいいじゃんという議論もあり、実際20年くらい実用化にむけて、多くの研究者や技術者が取り組んでいるんですけど、結局お金になってない。ロボットができることと、それの対価となる収益性が見合ってないのです。

インフラを作ってロボットを導入する。売上を出す。売上でインフラを維持し、整えることでロボットができることを増やす。このループをうまく回す必要があります。しかし、現状はインフラを作っても売上が出ない。インフラが維持できない。インフラが維持できないので、ロボットのできることが増えない。結局儲らない、という悪いループの繰り返しなんです。

そこでロボットで何を消費するかを考えた結果、今回は攻殻機動隊のコンテンツをお借りしました。これによって現状の悪いループを破壊していこうというのが、プロジェクトの骨にあたる部分です。たとえばトラブルで最悪動かなくなっても、どこの馬の骨ともしれないロボットがぽつんと置かれているのと、タチコマが置かれているのでは意味が違いますよね。最悪、動かなくても収益があげられる仕組みとかをちゃんと考えないといけません。

オオタニ:ロボットが存在しても違和感のない環境や法制度、人間のマインドを醸成していくために、今のところタチコマが一番ふさわしかったということですよね。

松村:もちろん、タチコマだけじゃないんですけど、海外でも30歳代以上になると、AKIRAや攻殻機動隊の影響力は大きい。あと、ロボットとひも付くコンテンツも世代によって違っています。同じガンダムでも、Zなのか、SEEDなのか、ダブルオーなのか年齢層で異なりますよね(笑)。そう考えると、タチコマだと1つのキャラクターでコンテンツがひも付くというメリットがありました。

小笠原:結局、ロボットも人間ができないことを一点突破しないと厳しいかなと。昔、イギリスって馬車と車のレーンの比率が90対10くらい違う有名な写真があったんですが、同じ場所で比率が逆転するのにたぶん10年かかってないんですよ。これを見ると、やはりすごいところを一点突破すると、パラダイムシフトが一気に起こりうるんだなと。でも、もともと馬車が通るための道路はあったんです。その道路をどうするかというのが、社会実装という僕たちがやっていることなんだろうなあと思います。

限りなくゼロオペレーションに近いロボットのためにIoTを活用したい

オオタニ:もう1点聞きたいのは、通信の部分。攻殻機動隊の世界だと、人間も、ロボットもつねに通信している。今ではLTEとか、Wi-Fiとか、LPWAとかいろいろありますけど、今回、1/2タチコマにさくらの通信モジュール入れているというのはどんな意図があったんですか?

小笠原:今回は単純にタチコマがセンシングしたデータを僕らのIoT Platformに持ってきたら、なにができるかという実験です。たとえば、非接触の心拍センサーを装備してるので、ロボットを目の前にして人がどんな感覚になるのか、LINEでフィードバックを返したら、どんな反応になるのかを見せてもらったんです。

オオタニ:手応え的には、どうでしたか?

小笠原:意外と違和感なく受け入れられたなと。みんな楽しそうですよね。

オオタニ:確かに最近Pepperとかも、こちらに慣れができたのか、あまり驚かなくなりましたよね。松村さん、ロボットと通信に関して、コメントをぜひ。

松村:まず前提として、プロダクションIGさんのショップで、タチコマに接客をお願いしたいなと。ちょうど今その実証実験をやっている最中なんです。

オオタニ:ストアに行くと、タチコマがいらっしゃいませーって言ってくれるような感じですね。

松村:そういうモノを実現したいんです。なぜそういうことをするのかというと、たとえば、今ここに座っているのが僕じゃなくて、新垣結衣さんだったらみんなうれしいですよね(笑)。

小笠原:そりゃそうですね(笑)。

オオタニ:コメントでもそう出てます(笑)。

松村:でも、松村としての(私自身の)これまでの人生は変えられない。でも、それをあらかじめ設計して出していけるのが、ロボットの一番の強み。要は人々が好みそうな任意のキャラクターにスイッチして、制御できるのがロボットなので、それを店舗の中でうまく活用していきましょうということです。でも、店舗の方がそれを運用していこうとすると、Wi-Fiとかは敷居が高いんです。技術者じゃないと使えないロボットは、店舗ではアウトなんですよ。

オオタニ:ロボットを動かすたびに技術者を派遣してたら、売り上げも減りますよね。

松村:ロボットのエンジニアは、ユーザーが自分たちのリテラシーである程度使えるモノとして提供しなければならないのに、まだそれができていない。それをやる1つの鍵として、さくらのIoT Platformを使おうと思っているんです。持ってきたら、さくらの通信モジュール経由で設定が済んでいるとか、タチコマの情報を勤怠用のスマホで見られるとか、LINEで情報が来たら絶対に導入が楽ですよね。そういった実際のユーザーに合わせたインフラ設計をやっていきましょうというときに、今回はさくらのIoT Platformがベストな選択肢だと思ったんです。

オオタニ:お客さんのところにあるロボットは、限りなくゼロオペレーションが必要になると。

松村:無限にコストがあるならともかく、普通は人件費がかかってしまうのでね。だからインフラとしては、そこをきちんと担保しましょうと。そうするためにはインフラを支えてくれるパートナーが必要で、さくらさんの存在は大きいです。

オオタニ:いろいろ期待されていますが。

小笠原:確かに自分の家とか、店とかにロボットが来て、いきなり初期設定しなきゃいけないのって萎えますやんって話です。なんですごいやつなはずなのに、設定しなきゃいけないんだと。

松村:イライラしますね(笑)。

小笠原:あと、ロボットのデータ上げるのに月々500円かかりますという話だったら、それだけでサービス料食われてしまいますよね。高いガソリン代払っている車みたいになるので、それは好きな人がやればよくて、普通は安いこと、なにも設定しないことが求められる。ロボットと普通にコミュニケーションしてたら、使えるという世界にならないと、受け入れられないと思うんですよ。

松村:お客様以上に、それを活用する店舗の人が受け入れやすいインフラじゃないと、誰も喜ばない。みんなが利益を享受した上で、ロボット入れてよかったねというインフラ、私は社会的受容性と呼んでいるんですけど、それをどのように設計するかという話ですね。その社会的受容性を実現するために、キャラクターコンテンツを売っている店舗で、キャラクターをきちんと動かそうというわけです。そのために、店舗の方から要望を得て、それをインフラ設計に活かそうと考えています。

オオタニ:チラシ配りやらせたいみたいなコメントが。

松村:チラシ配りでも適当なロボットがやったら、面白くない。でも、そのキャラクターにやらせたいという要望があれば、それはキャラクターを使う意義があるわけですよね。筐体をそのキャラクターにすればいいのであれば、それにすればいい。だから、タチコマも版権を持っているところ、プラットフォーマーと連携し、ロボットが活きるシステムに挑戦していきましょうというのが、今回のプロジェクトです。

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