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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第121回

WWDC16:Apple Design Awardとアプリのエコシステム、ビジネス、持続性

2016年06月24日 16時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII.jp

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WWDC16ではこの1年で優秀なアプリを開発者を表彰するイベントも開催されます

 macOS Sierraの話題に引き続き、Appleが開催した開発者会議WWDC16より。

 開発者以外の一般ユーザーにとって、最も大きな興味を引くのは、初日に行なわれる基調講演です。多くのユーザーに関係する、新しいOSの新機能が披露され、秋以降、iPhoneやiPad、Macでどんな体験が待ち受けているのか、予測することができるからです。

 ただし、そこから先は、開発者向けのより詳しいセッションが始まります。新機能の技術的な概要を2時間をかけて紹介するセッションは、基調講演の会場で行なわれ、開発者にとってはこちらの方が大切なのです。また、より個別のAPIなどについて説明されるセッションなどが5日間にわたって開催されます。

 初日の夕方、基調講演と同じビルグラハムシビックオーディトリウムでは、「Apple Design Award」(ADA)と呼ばれる表彰式が開催されました。WWDCでは恒例となっている、この1年で最も優秀だったアプリを表彰するイベントです。

 WWDCには例年、スカラーシップとして無償で招待される学生枠があり、Apple Design Awardでも、2つのスカラーシップ生が開発したアプリが表彰されていました。なお、受賞作品からMac向けのアプリは姿を消し、Apple WatchやApple TV向けのアプリが追加されていたのも、時代の変化と言えるでしょう。

 Appleの開発者ウェブサイトには、受賞アプリと開発者についての情報が、詳しく掲載されています。

ADA評価のポイントは?

 Appleがモバイルアプリ向けのApp Storeを2008年に開設してから8年目となりました。2010年にはiPadが登場し、iPhone/iPad両方使えるユニバーサルアプリが増加します。

 現在では、同じタイトルで、iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TVと全てのカテゴリのデバイスで動作するものも出てきました。生活に根ざしたアプリであればあるほど、人々が使うデバイスの増加によって、アプリとユーザーの接点が増えていく、そんな一つのルールを感じることができます。

さて、ADAの評価ポイントは4つありました。

・優れたデザイン
・テクノロジー活用
・ユーザー体験
・イノベーション

これに加えて、受賞領域も4つ。

・革新的なゲーム
・クリエイティビティの解放
・次世代の創造
・フィットネスをあらゆる人へ

 細かく見ていくと、Appleが開発者に対して提供している、開発キットやAPI、そしてデバイスの良さを生かしているアプリを奨励していることがわかります。

 2016年のADAで感じた重点的なポイントは、インターフェースでは3D Touchとウェアラブル、デザインでは美しく高速な3D表現、技術ではデバイス間連携とiCloud活用、ジャンルではクリエイティビティとヘルスケア、フィットネス。

 おそらく2017年は、スマートホームやSiriを活用したアプリが表彰されることが、WWDC16の基調講演から予測できます。また、アクセシビリティに対応したアプリが表彰された点も印象的でした。

 Djay Proは定番のDJアプリですが、ADAでは優れたアクセシビリティが評価されていました。デモでは、全盲のDJが、iPadのDjay Proをボイスオーバーによるインターフェースの読み上げ機能を頼りに、華麗なDJプレイを披露したのです。会場を大いに沸かせると同時に、非常に身体性をともなう作業を視角なしでこなせるアプリの力に感動を覚えました。

ゲームは豊かなグラフィックスが印象的

 ADAの表彰は、アプリ名が発表され、開発者が壇上に呼び込まれて、Appleのエンジニアによる説明とデモが行なわれるという流れで進行していきます。Appleの基調講演でも、時折、開発者が登場して自社アプリをデモする風景がありますが、ADAのデモには開発者はタッチできません。

 ゲームは、開発者の方がうまくプレーできるのではないかと思われがちですが、意外とAppleのエンジニアも上手で、これはADAまでにやり込んでいるんじゃないかと勘ぐってしまいます。

アプリ自体の紹介はAppleのエンジニアによって行なわれます

 ゲーム部門の受賞で最も印象的だったのは、Inks。古典的なピンボールゲームに、カラフルで美しいインクの表現を追加していました。ステージのデザインにはiPad ProとApple Pecilが使われているそうです。

 このゲーム、プレー風景をよくよく見ていると、ああなるほど、ピンボールのボールはボールペンのボールなのだと気づきます。インクの上を転がったボールは、そのインクの軌跡を描きます。そのまま、ボールペンですね。なんだか、文具の仕組みを見ているような表現もなんだか注目してしまいます。

筆者が愛用中のテキストエディタアプリも選ばれた

 ADAで筆者が最もうれしかったのは、愛用しているアプリのUlyssesが選ばれたことです。この原稿ももちろん、iPad Proで動作するUlyssesで書いているところです。

 Ulyssesは、Mac/iPhone/iPad向けの非常にシンプルなテキストエディタです。iCloudで常に最新の文書やフォルダ分け、スマートフィルタを同期してくれます。Macで編集を始めた原稿を、出先でiPadで仕上げたり、iPhoneで手直ししたり、といった非常に自由度の高い編集が可能です。

筆者が愛用するテキストエディタも選ばれました。今時にしては結構高額なアプリです

 気に入っている点は、MacでもiPadでも、機能が変わらない点。iPadでもフル機能を実装している、といってもシンプルすぎて複雑な機能はないのですが、軽快に編集を進めていくことができ、筆者の仕事環境のiPad移行を決断させたアプリでもあります。

 そしてADA表彰式の後、開発チームと話すこともできました。

 リッチなアプリが多い中で、人々が何か表現する上で、文章を書くことは今後もなくならないにも関わらず、書式やレイアウト、ファイル管理や共有など、文章を書くことの周辺に気を取られる体験を解決したい。

 友人が小説を書いていることをきっかけに作り始めたアプリは、少なくとも筆者にとっては、手放せないツールになっており、同じように利用している人々は世界中にいるのではないかと思います。

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