いま聴きたいオーディオ! 最新ポータブル&ハイエンド事情を知る 第6回
これでいいじゃんと思えるできの良さ
モニターヘッドフォンの鉄板ならこれ、「HA-MX100-Z」を聴く (3/4)
2016年06月15日 15時00分更新
空間が広々として、繊細にワイドレンジ化
じっくりと音を聴いてみた。
長期間サンプルの貸し出しを受けられたこともあり、従来機種のMX10-B(以下MX10)との比較に加えて、手持ちのヘッドフォン数機種とも比較できた。
まず感じたのは情報量の豊富さ。特に音のメリハリ感や切れ込み感がすごくいいということだ。そして低域から高域に至るまでバランスが崩れず、極めてニュートラルな印象だった。
Shureの「SHR1540」、ゼンハイザーの「HD25-1Ⅱ」などとも比べてみたが、HA-MX100-Z(以下MX100)と比較すると、高域や低域に結構な強調があると感じた。そのせいか中域がすこし引っ込んで聞こえる。一方でMX100は全帯域にわたってフラットな印象で、癖のなさが際立っている。一口にモニター系のヘッドフォンと言っても、意外にキャラクターの差があるのだと改めて感じだ。
今回はソース機としてAstell&Kernの「AK380」を用意して、直差しのアンバランス接続で試聴した。音源に関しては“HD-Music.”で配信しているJiLL-Decoy associationの『CROSS THE STORIES』など複数の音源を聴いた。
CROSS THE STORIESは発表会のデモでも使用された音源で、ビクタースタジオ内の“302スタジオ”で収録されている。ドラム、ウッドベース、ピアノ、アコギ、ボーカルは別個に録音しており、その意味では多重録音だが、マイク位置や演奏者の立ち位置などは最終的な仕上がりを意識して決めており、ミックスダウンする際に加える処理もEQなど最小限。一発録音に近い手法で録音されているという。
ビクタースタジオには複数のスタジオがあるが、それぞれ異なる空間の響きを持っている。リバーブの質感や音の明るさ、そして長さ、音の飽和やにごり具合など、場所を変えながら試行錯誤しているそうだ。
こうした配慮された上に完成した音源を、スタジオで実際に制作にあたった人と同じ機材で聞けるというのはある種の醍醐味だろう。
熱量の差を感じたMX10とMX100
ただしこのアルバム、リリースは昨年11月だ。MX100の発売は3月なので、実際に使用したヘッドフォンはMX10だったのかもしれない。と感じたのはCROSS THE STORIESの1曲目「ステイ」を聴いた際のこと。MX100では少し空間が広く、引いた感じがする一方で、MX10では音が濃く、ギター、ボーカル、そして残響が空間に混じっていく具合が非常に素敵だったからだ。
音源への近さや熱量の加わり方が違う。MX10はMX100よりスペック上の音圧感度が1dBだけ高いので、このあたりが影響しているのかもしれない。
両者を比べると、MX10は音像指向でよりステージに近く、MX100は音場指向で、より引いた位置からホール全体の音を聴いているという感じがあった。対するMX10はボーカルとバンドがぎゅっと凝縮されたようなリアル感があり、感性に訴える感じ。MX100はもう少し理知的というか分析的にも音楽を判断できる感じだ。低域の音圧感があって、時としてちょっと荒々しい鳴りもするMX10に対して、MX100は整ったサウンドで、より大人な雰囲気である。
2曲目「ワルツ・フォー・デビイ」でも、MX100は後方の席から、ホール全体の音を聴いている印象がある。
3曲目「ネヴァー・エンディング・ストーリー」では、楽器の調和感やバランス感の心地よさがある。そして空間表現にすごくこだわった音源だなと感じる。こちらもMX10はステージにより近く、ふっと抜ける高域の余韻感などもより生々しい感じ。臨場感とかライブって意味で言うとMX10のほうがいいと思ってしまう。MX-100はおとなしい、というか文字通り“大人”な雰囲気になる感じだ。
一方で、4曲目「ユー・ガッタ・ビー」や、5曲目「トリステーザ」の付帯音や残響、音色の緻密な表現に注目するとMX100の良さが感じられてくる。例えば4曲目の最初入るエレキギターの音色感、ボーカルが入ってからチョッパ風に弾くニュアンスはよく出てくる。MX10も入りのエレキギターがカッコよく、ボーカルに実在感があるが、曲が進むと力強さ先行になってしまう感もある。
結果、音の微妙なニュアンスを感じるよりは、熱のある演奏だな~と思ってしまう。これはMX10の美点でもあるが、音離れや聴き疲れしにくさなどトータルではMX100がいいなと個人的に思えた。
5曲目についても、耳の慣れがあるかもしれないが、MX100の音の広さ、きめ細かさといった部分が好印象に思えてくる。音数が増えてくる音源ほどその印象が強まる。高域もすっと自然に抜けていく感じで、空間表現に影響があると思う。
もうひとつ、MX100は打楽器の音がとても魅力的なヘッドフォンだ。パーカッションのスパンと切れ込みよく響く感じや、ハイハットの入り方が自然で心地よい。例えば、SRH1540と比べると、バスドラムやタムタムの立ち上がり感や音色感の自然さ、ハイハットのなまらず、硬すぎず、演奏者のテクまで見えてくるような表現力などを感じた。
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