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まつもとあつしの「メディア維新を行く」第55回

劇場版BD発売中! 今あらためて「大洗」と「ガルパン」を考える

ガルパン杉山P「アニメにはまちおこしの力なんてない」

2016年08月06日 17時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(C) GIRLS und PANZER Film Projekt

町が先を走り始めた

杉山 2013年の海楽フェスタだったかな? 2話分テレビシリーズが落ちてしまって、11話と12話(最終話)は2013年3月に放送することになったんですね。そうしたら最終回放送日と海楽フェスタが同日だったんです。

 この偶然は活かすべきだろうということで、前日の土曜夜に最終話込みの全話をオールナイトで観ようというイベントを企画したんです。テレビ局に許可をいただいて、シネプレックス水戸に企画を持っていったら面白がってくれて、じゃあ2スクリーン空けましょうという話になりました。

 ところが予約をとってみたらあまりにも殺到してしまい、結局全スクリーン使うことになったんですね。それはうれしかったのですが、よく考えたらオールナイトなので5時過ぎには劇場から退出しないといけないんですよ。観客はたぶん翌日、というかその日の朝、海楽フェスタに行くでしょうと。

 移動手段をどうするかという話になって、鹿島臨海鉄道さんと茨城交通さんに相談して臨時便を出していただいたんです。しかし、いざ大洗の駅まで辿りついても3月の朝6時頃。凍死者とか出たら大変だという話になって、わたしがふと思いついて無茶ぶりをしたんです。町の文化センターを開放してもらえませんか、と。

 皆無理だよそんなのって言うんですけれど、とりあえず町の生涯学習課に話を持っていってもらったんです。色々あったとは思うのですが、最終的に開放してもらえることになりました。そこを暖めないといけないから職員さんが朝5時くらいにやってきて、暖房を入れなきゃならないにもかかわらず。駅からは茨城交通さんがピストン輸送してくれました。

 これが実現する自治体ってあまりないと思うんですよ。

―― 普通はどこかで(話が)止まりますよね。

杉山 通常の勤務形態から逸脱していますからね。そして2014年は水戸で剣道の全国大会があって、そもそも宿泊施設が足りなかったんです。でも前年のあんこう祭が10万人を超えていたので宿泊施設不足は明らか。どうしようという話になって……またわたしが無茶ぶりをするわけです(笑)

 潮騒の湯、それから町運営のゆっくら健康館をシェルターに使えないかなって話をしたら、潮騒の湯のおかみさんが乗ってくれたんです。一泊2000円で雑魚寝だけれど食堂を開放して、朝まで騒ぎたい人は2階でねって感じにしてくれて。すると町営のゆっくら健康館もシェルターとして稼働していいよという話になり、ありがたくてわたし当日の夜、ご挨拶に行きました。

 そして今年の海楽フェスタでは町長から話があって、潮騒の湯とゆっくら健康館だけでなく商船三井フェリーの「さんふらわあだいせつ」がホテルとして稼働しました。

―― たとえは良くありませんが、それこそ震災のときのような対応ですね。

杉山 その発想ってまず我々には無理だと思うわけですよ。それを実現してしまう町の人たち、商工会や行政。これができる町はそうそうないでしょう。

―― もとから持っているポテンシャルが高い。

杉山 高いし、あの人たちの……そのなんて言うんですかね、お祭り心。

―― ガルパンがそこに火を点けたという部分はあるでしょう。

杉山 まあ、そうですね。火が点きやすかったと思うんです。皆困っていたというのはありますから。そうしたら意外と面白くなってきて、ファンもマナーの良い人たちだし……というすごく良いスパイラルで上昇気流ができたと思っています。それを作ったのもやっぱり地元なんですよね。

 町内にキャラクターのパネルを立てて、ファンに探してもらう「ガルパン街なかかくれんぼ」というイベントがありましたが、これも我々ではなく、商工会発案なんです。このイベントによって、それぞれのお店がガルパンというものを意識し始めて、店頭に立てたキャラクターを通じてファンとコミュニケーションもできるようになると。この導線の作り方は見事でしたね。

 だから、わたしはホントに、アニメをポンと持ってきたらパアっと町がどうにかなる、なんて夢見るのは止めたほうが良いと思うんですよ。

ファンからも大好評だった「ガルパン街なかかくれんぼ」は大洗町からの発案で始まった。現在も継続中

―― テレビ映像作品の一般的なライフサイクルからしても、このガルパンを巡る動きは非常に長いと思いますし、地域の人たちのポテンシャルなくしてはあり得ない話ではありますね。

杉山 たまに、コンサルタントから送られてくる企画書を見るんですけれど『うーん』って。過去事例を並べて「あなたの町もこうすれば……」という内容で、言い方は悪いけれどお手軽過ぎというか『考えてないでしょ』って思っちゃうんですよね。

―― あなたたち、6年間毎月のように通って、面倒事もモデレートしながらやっていけるんですかっていう。

杉山 どこまで関わる気がありますか、ってことだと思うんですよね。わたしの場合は苦にならないからやれていたというのはあると思うんですけれど。町の人たちを中心に作って盛り上げていく形でないかぎりは、たぶんうまくいかないんじゃないかなあ……。

―― アニメの舞台に万が一選ばれたとしても、ヒットしなければその先は拡がらない。ヒットしても町の人の取り組みあってこそ――アニメそのものに“まちおこし”の力はないという言葉は、率直だけれども大切な立ち位置の確認だと思いました。

杉山 はい。自分たちのやっている仕事を卑下するつもりはまったくありません。ただ、その部分(地域振興)では必要以上に評価され過ぎている感じがしていて。

 アニメが持っているものはそこじゃなくて、訴えたいことをきちんと伝えて感動してもらったり怒ってもらったり……物語そのものから何かを受け取ってもらう、そのための表現媒体としての力はもちろんあると思っているんですけれど、町を興すことについては、アニメの持っている力とは違うと思うので。そんな力はない、というのはそういうことなんです。

著者紹介:まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。デジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆などを行なっている。DCM修士。
 主な著書に、堀正岳氏との共著『知的生産の技術とセンス 知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術』、コグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』(マイナビ)、『できるネットプラス inbox』(インプレス)など。
 Twitterアカウントは@a_matsumoto

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