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de:code前夜祭「Japan ComCamp meets de:code」もレポート

Microsoft MVPが個人とコミュニティのパワーをフルに引き出す

2016年05月27日 12時25分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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開発者にフォーカスするマイクロソフトのユーザーコミュニティ支援施策が「MVP(Most Valuable Professional) アワードプログラム」だ。MVPの制度や狙い、受賞者にとってのメリットを聞くと共に、de:code 2016の前夜祭として行なわれたコミュニティイベント「Japan ComCamp meets de:code」の模様をお伝えする。

コミュニティ活動を支援するMVPとは?

 マイクロソフトのコミュニティの歴史は古い。1990年代からユーザー同士が草の根で勉強会を行なっており、OSや開発言語、Web技術などさまざまな分野においてスキルと知見を高めてきた。こうした中、優れた技術者を選出することで、コミュニティを支援するための仕組みが「MVP(Most Valuable Professional) アワードプログラム」だ。

 MVPはマイクロソフト製品やテクノロジーに関する豊富な知識と経験を持ち、コミュニティやメディアを通じて、幅広いユーザーと共有している個人を表彰する支援プログラムだ。こうしたMVPの制度について、日本マイクロソフトの砂金信一郎さんは「今までマイクロソフトが成長できたのは、20年の間、優れた開発者に支えられたから。前CEOのスティ-ブ・バルマーも、現CEOのサティア・ナデラもこうした開発者との対話を重視しています。MVPは こうした開発者のコミュニティに対しての感謝を示すと共に、特定の製品や技術に対して優れた知見を持っていることをマイクロソフトとして証明するという制度です」と説明する。現在、グローバルではMVPがすでに4000名以上おり、日本でも約240人がMVPを受賞している。こうしたMVPの事例は、ビジネ ススクールの成功例として語られるほどだ。

 MVPになるのはどうしたらよいのだろうか? マイクロソフトが力を入れていきたい分野で活躍する人はもちろんのこと、MVPは各製品の事業部からの出資から成り立っているため、その時点で事業部の求める人材像がクライテリアになる可能性は高い。MVPプログラムを担当するマイクロソフト コーポレーションの松野千晶さんは、「開発フェーズの製品であればフィードバックを提供するスキルのある方。製品のラウンチに当たっていれば、アーリーアダプターとしてエバンジェリスト活動のできるインフルエンサーがMVPを受賞する傾向にあります」と語る。特定製品のMVPに関しても製品のよさを最大限に引き出した使い方をインフルエンスできる人が対象だという。応募した人ごとに1年ごとに活動状況をチェックして、受賞者を選定。受賞者は1年間MVPであることを名乗ることができる。

マイクロソフト コーポレーション DX Audience & Platform Marketing, Audience Evangelism Manager 松野千晶さん

 MVPになると、MSDNサブスクリプションやOffice 365が無料提供され、検証等で利用できる。また、製品開発部門のメーリングリストに参加できるため、いつでも直接フィードバックが行なえる。さらに、米国で開催される「Microsoft MVP Global Summit」という開発者向けイベントへの参加権を得ることができる。「1週間で700近いセッションが行なわれる大型イベントです。現地で製品のフィードバックするプレゼンしたり、NDAベースの情報を得ることができるので、社員より詳しい方もいます」と松野さんは語る。当然、MVP同士のネットワークも拡がるので、転職や書籍執筆の機会も得られるという。

フリーランスとして独立した山本誠樹さんにとってのMVP

 仙台でフリーランスのエンジニアとして活動し、地元でコミュニティを立ち上げる山本誠樹さんも、そんなMVPの1人だ。昨年まで在席していた中堅のSIerではC++でケータイのアプリケーションを作っており、その後JavaやWeb系、SQLのデータマイニングなども手がけるといったスキルパスを持つ。

Azure MVPを受賞したフリーランスの山本誠樹さん

 山本さんは東日本大震災を契機に知り合いのMVPとともに仙台でマイクロソフト系の勉強会を立ち上げ、継続的に活動を推進していたという。こうした活動が評価され、2年前にAzure MVPを受賞している。「マイクロソフトのエバンジェリストである井上章さんからMVPへの応募を勧められたのがきっかけ。応募したら、受かってしまった」と山本さんは語る。

 しかし、当時の会社ではMVPだからといって評価を受けることはなかった。「せっかくMicrosoft MVP Global Summitに行けるのに、1週間の有休申請に非常に苦労した。外部からは評価されているのに、うちの会社では評価されない。自分の中では葛藤があった」と語る山本さんは、1年前に独立してフリーランスでシステム構築やプログラム開発を請け負っている。ある意味、MVPが人生を変えた1つの要因になっているとも言える。

 クラウドとコミュニティがあれば、フリーランスでも会社と悟するパワーを発揮できるからだ。「今まではサーバー用意するのに、見積もりとったり、ハンコリレーがあったり、やっと発注しても1ヶ月後に届く。本番稼働までに間に合わないなど、いろんな手間があった。開発やインフラを担当する分業のチームが必要でした。でも、クラウドというパワーのおかげで人をかけなくてもよくなったし、欲しい時に必要な分だけリソースを手に入れることができるようになった」と山本さんは語る。

 MVPを受賞しているとはいえ、山本さんは必ずしもマイクロソフト製品の信奉者ではない。ここが面白いところだ。「昔はSolarisやOracleを使っていました。最近の開発で使っているのは.NETではなく、LinuxやJavaです。『がんばれゲイツ君』を読んでいたくらいなので(笑)、むしろマイクロソフトに対してはネガティブでした」と山本さんは振り返る。そして現在も歯に衣を着せないフィードバックもためらわない。「たとえば、音声処理とかの日本語対応はまだまだだと感じています。あと、マイクロソフトは製品が手広い分、これだったら絶対競合に勝てるという分野が少ないと思っています」と語る。

 とはいえ、ここ数年でマイクロソフトが大きく変わったことは実感している。「『OSSはガンだ』みたいなことを言っていたのが嘘かと思うくらい、最近はOSSへのコミットも積極的。今ではネガティブなイメージは全然ないですね」と山本さんは語る。

1600台規模のSurfaceに「魂」を入れた西端さん

 Surface MVPの西端律子さんは、奈良の畿央大学でIT教育を推進する一方、コミュニティ活動に注力する。

畿央大学 教育学部 現代教育学科 教授 博士(人間科学) 西端律子さん

 大学院在籍時にメディア教育、その後コンピューターの世界に移った西端さんが最初に勤めたのは、大阪府立工業高等専門学校というバリバリの工業系の高等教育機関。「抵抗をゴミだと思って捨てようとしたら、めっちゃ怒られた(笑)」という西端さんだが、当時は電気工学から電子情報工学に移る過程で、女子学生が増える中、西端さんのプログラミングのスキルは重宝された。その後、母校の大阪大学で助手や情シスなどを経験し、現在は畿央大学教育学部で主に小学校の教員を養成している。

 現在在籍する畿央大学ではSurface(今年はSurface3、昨年はSurface Pro3、一昨年はSurface Pro2)を大量導入し、IT化が進む教育現場に対応できる小学校の教員を育てている。一学年で550台、全学年で1650台の導入はおそらく国内最大の規模。「子供も減ってくるし、これからはますます教員自体の資質も問われてくる。教員として、なにか付加価値を付けていく必要がある。だから、われわれも私学の生き残りを賭けて、特色のあることをしようということで、Surfaceを導入した」と西端さんは語る。

畿央大学ではSurfaceを使った授業でITに強い教員を育てている(提供:畿央大学)

 MVPの受賞に関しては、もちろんSurfaceを数多く導入したからではなく、西端さんが考える教育とITのポリシーが大きいようだ。「私としては、次の世代、次の次の世代を見据えて、授業を組み立ている。ITへの拒否感を学生のうちになくし、適材適所でITが活用できる人材を送り出したいなと思っています」と西端さんは語る。

 西端さんはコミュニティ活動にも注力している。Surfaceの特色を活かした教育プログラムを考えている過程で出会ったのが、現在マイクロソフトで活躍するデプロイ王子こと廣瀬一海さん。OSSに精通し、マイクロソフトの技術との組み合わせを古くからコミュニティに啓蒙してきたエンジニアだ。「当時MVPだったデプロイ王子との出会いをきっかけに、コミュニティにもどんどん参加するようになりました」(西端さん)とのことで、現在は自身で子連れ歓迎の「ITな女子会」も立ち上げている。

 コミュニティに参加する西端さんのような教育関係者は、マイクロソフトにとってもありがたい存在だという。「学校の先生ってわれわれからするとコミュニティリーダーとほぼ同義。多くの人に影響を及ぼす方なので、学校の先生がわれわれのファンになってくれるのは、とても重要です」と砂金さんは語る。これに対して、西端さんも「Surfaceを配った学年で、MacBookをドヤっている学生はまだ見ない(笑)。3年目なので、けっこう使い込まれてますが、みんな愛着を持って使ってくれている」と応じる。MVP先生の神通力はかなり強力なようだ。

 西端さんは、マイクロソフトが強力に推進しているワークライフバランスに共感しているという。「IT業界ではまだまだ女性が少ない。私自身もこの業界に25年いますが、本当に男性ばっかりです。そのため若い女性エンジニアも周りに相談する人がいない。その点、マイクロソフトには、リモートワークや女性活用の取り組みを私たち女性エンジニアにももっともっと示して欲しい。私はMVPとしてコミュニティを主導できる立場なので、このようなマイクロソフトとこれからのIT業界をうまくつなげたいなと思っています」と語る。

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