どもどもジサトライッペイです。
ところで、水冷PCってかっこいいですよね。一般的な空冷に比べて水冷では特殊な溶液を循環させることで、効率よくCPUやGPUを冷やし、オーバークロックで性能を上げる際にも有効な手段です。また、ラジエーターファンを静音なものにして動作音を静かにできるなんてメリットもあります。僕のPC「大紅蓮丸」も12コア/24スレッド動作で発熱が高いXeon E5-2697 v2を2基積んでいるので、CPU部は水冷にして真夏の室温上昇にも耐える設計で安定運用しています。
しかし、どうしても空冷に比べて装置がおおがかりになるので、ノートPCでは内部スペースの制限から水冷は非現実的でした。それでも「ノートPCでも水冷で性能を上げたい」という思想は昔からあり、2002年には日立から「FLORA 270W サイレントモデル」という水冷システムを備えるノートPCが登場しました。完全に水冷機構をPC本体に内蔵する方式で、当時話題になりました。それから約14年、ASUSは水冷機構を着脱型にした世界初の水冷ゲーミングノートPC「ROG GX700VO」を発表しました。予想実売価格はなんと税別で54万9800円で、税込だと59万3784円になります。
「おいおい!18コア/36スレッド動作のXeon E5-2699 v3が買えちまうよ!安めのGeForce GTX980Tiなら7本も買えるぞ!」
という、ノートPCとしてはかなりお高めな価格ではあるのですが、この強気な価格設定と採算度外視したコンセプトの世界一クレイジー(褒め言葉)なノートPCを肉眼で拝むべく、発表会にお邪魔して参りました。
10周年のASUSゲーミングブランド“ROG”
発表会の冒頭では、ROGブランドが今年で10周年であることがわかりました。マザーボードにグラフィックボード、ノートPCにデスクトップPC、液晶ディスプレー、サウンドボードにヘッドフォンとさまざまなデバイスがPCゲームをより快適に楽しむために開発されてきました。
同社のグラフィックボードでは、最近はSTRIXという新ブランドが主流のような気もしますが、ハイエンドのラインでは今後もROGがプレミアムなブランドとして続くことでしょう。ROG GX700VOはそんなプレミアムブランドを象徴するかのような、ピーキーな仕様で同ブランドの未来は明るいなと感じました。
水冷ユニットの中にはラジエーターが2基
ROG GX700VOは電源を入れたまま水冷ユニットが1ボタンで外せる機構です。ボタンは水冷ユニット側にあり、PC天板の裏側近くに位置します。水冷ユニットの中身を見てみると、ポンプと2基のラジエーターが大部分のスペースを占めていることがわかります。ラジエーターの裏にはそれぞれファンが付いていました。ファンのサイズは9cmとのこと。
PC本体とは独自形状の接合部があり、真ん中の赤い部分が電源給電部、その両脇が冷却液が通過するライン、最両端はずれないように固定する棒、という感じです。冷却液はクイックリリースのような機構で水漏れしません。冷却液の合計容量は200ml程度で、2年でASUSサポートのメンテナンスが必要になります。その構造からPC本体を外したときに、PC本体側の管に冷却液が1~3割程度残るようです。つまり、20mlから60ml残る計算になり、PC本体の重量が変わるということですが、公式発表の重量は約3.6kgとそもそもかなり重めなのであまり気になりませんね。
ちなみに、水冷ユニットも持ってみるとかなり重いです。asus.comの製品ページで確認すると4.8kgもありました。「これはノートPCとはいえ、運ぶのに難義しそうだなー」と思った方に朗報です。なんとこのROG GX700VOは専用のスーツケースが付属します。繰り返します。なんと専用のスーツケースが付属します。
なんと専用スーツケースが付属!
海外帰りを装い、スタバでドカッと広げてどや顔したくなります。まあ特にやることもないので、3DMark Fire Strikeでも一発かましたら即退散しますが。でも、スタバで運用するのに困ったことこともあります。それは、電源の確保です。
実はROG GX700VOはの水冷ユニットはバッテリ―駆動には非対応で、AC電源アダプター駆動必須です。ちなみにACアダプターは水冷ユニット用と、PC本体用の2つが付属します。なお、水冷ユニット専用のAC電源アダプターは水冷ユニットを通してPC本体側にも供給でき、端子が中途半端に差さっているとブザーで知らせてくれる優れものです。
このように電源まわりが特殊なのにもちゃんと理由があります。というのも、ROG GX700VOはオーバークロック(OC)が可能なノートPCなのです。しかもCPUとGPU、メモリーのOCに対応しています。「これもはやデスクトップだろ!」とつっこみたくなるほど、ノートPCの常識を覆した仕様にほれぼれですね。
OCは専用ソフトで動作モードの変更で設定
CPUは第6世代Core(開発コードネーム:Skylake)のノートPC向けの中でも倍率アンロックの特殊なSKUである、Core i7-6820HK、GPUはデスクトップ向けでもノートPCに搭載できる高性能モデル、GeForce GTX980を採用しています。Core i7-6820HKは本来、定格動作クロックが2.7GHzで、ターボブースト時の最大動作クロックが3.6GHzのCPUですが、OCすることで4GHzでも駆動できます。
メモリーはDDR4-2133(容量は32GB!)を採用していますが、こちらもOCで2800MHz駆動が可能。GeForce GTX980は本来定格クロックが1126MHzで、ブーストクロック1216MHzですが、空冷機構よりも最高約33%低い動作温度で運用できるため、性能を損なうことなく動作できるとしています。このあたりは、実際に動作させてみて動作クロックの挙動を観察したいところですね。
OCは「Gaming Center」というソフトの「Turbo Gear」という項目から設定できます。動作モードは4つあり、PC本体だけの場合、“標準”と“最適化”が選べます。“標準”はOCしていない状態で、“最適化”はそのときの温度状況(PC内部の温度)に応じてクロックアップできるだけOCするというモードです。ちなみにこの設定は水冷ユニットに接続して再起動すると、自動で“最高”モードに変更されます。そしてこのほかに“手動”モードがあり、細かくユーザー任意でクロックの調整ができるモードになっています。
なお、同社の説明員さんに聞くところによると、“手動”モードで“最高”モード時よりも高い設定にしても、実際には温度状況などによってパフォーマンスが下がることもあるとのこと。おそらく、Thermal Throttlingによる急激なクロックダウンが主な原因だと思いますが、OC慣れしていないユーザーは“最高”モードを使うのが無難そうですね。
G-SYNC対応液晶やSSD RAID0も見逃せない
ここまででもかなりお腹いっぱいなんですが、CPUやGPUや水冷機構以外の仕様でもROG GX700VOは魅せてくれます。まずは液晶ですが、17.3インチのIPSパネルで解像度は1920×1080ドットと普通ですがなんと“G-SYNC”に対応しています。これにより、カクツキやチラつきなしでゲームに没頭できるってわけです。
さらにストレージはNVMe対応の256GB SSDを2基、RAID0構成(つまり合計容量512GB)で搭載。同社が「CrystalDiskMark 5.0.2」で計測したところ、シーケンシャルリードで毎秒約2842MB、シーケンシャルライトで毎秒約2482MBだったといいます。これならストレージが原因になる系のPCゲーム読み込みでストレスを感じることはなさそうです。
キーボードは30キー同時押しに対応したアイソレーションタイプで、キーストロークは同社がゲームのレスポンス上最適と考える23mm。上部のマクロキーは特定のアプリ起動なども設定できます。
サウンド回路には384kHz/32bitに対応するESS Technology社のヘッドホン用DACとアンプを搭載。ゲーム内の敵や銃声などを画面上に表示する「Sonic Rader」やサウンドをゲームに最適化する「Sonic Studio」など機能も充実しています。
といった具合に、決して安くはありませんが価格なりのこだわりと仕様が盛りだくさんです。自作PCなら60万円も出せばもっと高性能な水冷PCができますが、そんな野暮なツッコミは世界一のマザーボードメーカーである同社なら百も承知でしょう。ではなぜこのような意欲的な製品を作ったか? きっとそれは“ロマン”でしょう。
もちろん、どこの会社も一回は考えたけど技術的・予算的・マーケティング的に検討してやらなかったアプローチのような気もします。しかし、ASUSは実際に行動し、世に発表し、2月19日に正式に発売します。これは開発担当者またはチームのロマンを追いかける熱意がそうさせたのでしょう。まあ、実際にインタビューしたら「なんとなくノリでwww」と言われる可能性もゼロではありませんが、そんなノリで動ける同社はやはり企業として経済的にかなり余裕があるんだなーと思いますし、「ASUSの高い技術力を世に知ってもらうため」となっても、なるほどなと思います。
CPUやメモリー、ストレージ、OS、ソフト、ウェブサービスの進化で現代のPCは極端に負荷の高い作業以外は、どのPCでもほとんど困らなくなりました。また、そのほとんどの作業がスマホで代替できる昨今です。そんな性能を必要としないPCユーザーが増え続けている今日において、あえて性能を伸ばしづらいノートPCという分野で、業界にとんでもなく巨大な一石を投じたASUSに心底惚れました。そんな製品でした。
■関連サイト
ASUS
ASUS GX700V0製品ページ(英語)