高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第11回
「未来がどうなるのか」ではなく「未来をどうしたいか」が問題
フォロワー20万人意味ない、サザエbot中の人が見るネットの今
2016年01月26日 09時00分更新
巷にあふれる「未来がどうなるか」より「未来をどうしたいか」が重要
―― UN|COMMONSでのプレゼンテーションの中に「I Became you. 私はあなた」という言葉がありましたよね。“なかのひとよさんはサザエbotの中の人であると同時にすべての人々の中の人でもある”という、先週の対話の主要なテーマが集約されたような言葉だと思いました。
なかのひとよ あのプレゼンテーション自体「The world is you. 世界はあなた」をテーマにしていたの。わたしとあなたの境界がもはや溶け出し始めているように、世界はあなた自身が作っているものだということ。それはつまり、世界が今後どういう方向に進んでいくかもまた、すべてはあなた次第ということ。冷静に考えればとてもシンプルで当たり前のことだけど、いま改めて、巷にあふれる「未来がどうなるのか」の予測ではなくて、あなた自身が願う「未来をどうしたいか」という認識の大切さを、訴えたかったのよね。
―― まさに「スペキュラティブ・デザイン」(関連記事)ですね。今後、バイオテクノロジーやナノテクノロジー、人工知能、ロボット工学などが急速に発達していく時代には、もう旧来の倫理観や道徳観では立ち行かない問題が次々に出てくるだろうと思うんです。そうしたときに、既存の方法ではもはや問題は解決できなくて、むしろ問題を宙吊りにして、判断を保留して、じっくり社会や人間や世界を思索するための問題提起的なデザインが必要なのではないかと思うんです。
なかのひとよ そうね、今後テクノロジーが従来の倫理観や伝統を覆していくことはほぼ確定してるわ。例えばバイオってキーワードが挙がったけど、今ってどんどん生物学や医学が工学と融合し始めているでしょう? しかもバイオの進展はムーアの法則よりも5、6倍早いとも言われてるから、生きている間に不死になる可能性もなくはない、なんてことも言われているほどよ。そうすると、当然私たちの倫理観や道徳観も劇的な変化が起こる。周囲の意見ではなく、価値基準はより個人的にならざるを得ない。つまりあなた自身が、世界や未来をどうしたいのか、真剣に考える必要が出てくるのよ。
―― さきほど、サザエbotは良くも悪くも認識のされ方がバラバラとおっしゃっていましたが、なかのひとよさん自身もさまざまなメディアで未来や技術に関して発言されていますから、一見、未来礼賛論者のように映るけれども実はぜんぜんそんなことないですよね?
なかのひとよ 確かにそんなふうに思われることもあるけど、ちょっと違うわね。じゃあ、未来悲観論者かと言えばそれも違うわ。未来やテクノロジーの話ってユートピアかディストピアかの二元論になりがちだけど、否応なく押し寄せてくる未知の世界に対して賛美や拒絶ばかりしていても仕方がないと思うの。使命感なんて大げさなものではないけど、私は「フューチャーショック」をなるべく和らげたいという気持ちだけがある。可能なかぎりの多様な未来を提示し続けたいという思いが強い、と言ったほうが当たっているかもしれないわ。
―― 極端な礼賛と極端な悲観の間には実は広大なグラデーションの領域がありますからね。そこにこそ僕らが創り出せる未来の世界の選択肢や可能性が無数にある。
なかのひとよ わかりやすい話にはかならず落とし穴がある。安易な結論は耳障りだけはいいけれど、そのグラデーションをすべて無視しているということでもあるのよね。それに最近「未来の~」というキャッチコピーの元で何かが語られることが多いでしょう? 本当に大事なのは、今なのにね。

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