Zenコア採用のAMD FX
Summit Ridge
さて、これに続く本命がZenコアを利用したAMD FX向けのSummit Ridgeである。Zenコアの内部構造や動作周波数についてはすでに連載332回と333回で説明したので今回は繰り返さない。
このSummit Ridgeについては昨年10月の投資家向けイベントの際に、「2016年中に出荷するが、売り上げがたつのは2017年」としており、おそらくは今年のクリスマスシーズンになると思われる。
理由はプロセスの最適化である。連載333回の動作周波数の説明の中で、筆者はTDPを60W程度に抑えると3GHz程度の動作周波数になるだろうと予想している。
これには傍証がある。下の画像は昨年10月にサンタクララで開催されたARM TechCon 2015において、Broadcomが発表したものである。
同社はVulcanというARMv8-Aベースの独自SoCを開発しているが、これの製造に先立って16nmの製造に習熟する目的でCortex-A72コアをTSMCの16FF+プロセスで製造している。
同社が最初に製造したものは2015年3月にあがってきており、これは平均2.5GHz動作であった。これをその後3回作り直し、9月にあがってきたものでは消費電力を0.34W下げつつ動作周波数を3GHzに引き上げることに成功したというものだ。
この結果と、Summit Ridgeの数字は直接的にリンクするわけではないが、昨今のFinFETプロセスはおおむねこの3GHzあたりが動作周波数の1つの目安になっており、GlobalFoundries/Samsungの14LPPでもこれは大きくは変わらないだろうと予測される。
ところが3GHz程度では、競合するインテルのSkylakeには水をあけられすぎなのも事実であり、せめて最大で3.5GHz程度までは引っ張りたいところだ。ところがそのためには最適化に時間が掛かる。 Broadcomでさえ、2.5GHzから3GHzに半年かかっているので、AMDの目標と思われる3.5GHzまで引っ張るにはやはり相応の時間が必要になるだろう。
動作周波数がそこそこで良いと割り切れば、それなりに早い時期に製品は出せるだろうが、ハイエンド製品なだけに最初は時間がかかるのは仕方ないところだろう。
ZenコアのAPUが2017年度に登場か?
Summit Ridgeに続き、今の予定では2017年度に次のAPUが予定されている。これはCPUコアをZenに入れ替えたもので、GPUは引き続き現在のGCNながらCU数を12~16程度まで増やしたものになると思われる。Polarisアーキテクチャーが入るのはさらにその次ではないかと予想する。
実はこの製品、今は2017年と書いているがひょっとするとSummit Ridgeより先に出てくるかもしれない。理由はやはりCPUの最適化の期間である。Summit Ridgeはどうしても3GHz以上(できれば3.5GHz程度)でないと競争力がないが、APUの方はCPU性能はそこそこでもGPU性能が高ければ十分競争力がある。
ZenコアはExcavatorコアと比較して、IPC(instructions per clock:クロック周波数あたりの実行命令数)でおよそ40%の改善が見込まれる。ということは、Excavatorの3.6GHzのコアとZenの2.6GHzはほぼ同等の性能ということになる。
2.6GHzで駆動されるZenコアを作るのは、3.5GHzで駆動されるZenコアよりもずっとたやすいわけで、例えばCPU性能を据え置きにしても構わないとAMDが判断したら、Summit Ridgeよりも先に市場投入できることになる。
このあたりはもう技術的というよりもマーケティング的な判断によるところが大きいが、一応可能性としてBristol Ridgeの次のAPUが2017年を待たずに投入される可能性があると筆者は見ている。
実際、もしこれが9月とか10月に投入されるのであれば、Socket AM4とBristol Ridgeを3月に投入するのは理に適った判断とも言えるからだ。
というわけで、まだまだ不明確な部分は多いが、今年のAMDの動向は非常に興味深いことになりそうだ。
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