不適切会計処理の温床となった「Buy-Sell取引」とは
責任追及のなかで触れられている「Buy-Sell取引」については、PC事業が舞台となっている。
Buy-Sell取引とは自社で調達した部品をODM先に販売。それを使ってPCを製造し、完成したPCを東芝が買い取るという取引のことだ。東芝グループで部品を調達したほうが、ODM先が調達するより価格が安いという背景があったことから、この仕組みを採用している。
この取引自体は、外資系PCメーカーも実行しているものであり、問題はない。
東芝では、2001年ごろから、不振に陥ったPC事業の立て直すことを目的としてBuy-Sell取引を開始。西田元社長をリーダーにしたPC特別事業改革プロジェクトが発足し、田中前社長が調達ワーキンググループのリーダーを務め、調達および生産の効率化、コスト削減を狙ってBuy-Sell取引を導入した。
東芝の場合は、ハードディスク(HDD)やメモリーは自社で生産しており、その点でも、Buy-Sell取引は有効だった。
「マスキング価格」が不適切会計処理の温床に
だが、東芝では、部品供給をする際に、自らの調達価格がODM先にわからないように、一定金額を上乗せした価格を設定して納入。これを「マスキング価格」と呼んでいたが、そこに差額が発生。これが不適切会計処理の温床となった。
部品価格の下落にあわせて、東芝が設定したマスキング価格と、東芝の調達価格との差額(=マスキング値差)が拡大。2012年度には、マスキング価格は調達価格の5倍に達し、子会社を通じた調達ルートでは8倍にもなったという。
東芝では、このマスキング値差を製造原価のマイナスとして認識。この会計処理方法を悪用して、それぞれの四半期末において、正常な生産に必要な数量を超えた数の部品をODM先に販売し、在庫として保有させ、マスキング値差を製造原価のマイナスに計上することで、見かけ上の利益をかさ上げしていたというわけだ。
これが不適切な会計処理と認定されたのである。
調査によると、東芝社内では、「パソコン事業における部品取引などに係る会計処理」で15件の不適切な会計処理が行われ、売上高で149億円、税引前損益で1518億円の修正が必要となった。当時の経営陣が、株式市場を大きく混乱させた責任とともに、東芝のブランドイメージを棄損させた責任は大きい。
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