『角川インターネット講座』シリーズ総監修者インタビュー
「壁をどんどん壊していってもらいたい」インターネットの父と呼ばれて~村井純氏
2015年11月28日 18時00分更新
先頃全15巻が完結した『角川インターネット講座』の総監修を務めた“日本インターネットの父”村井純氏に、シリーズに込めた思いを語っていただいた。〈連載一覧はこちら〉
インターネットで何かが起こると「村井のせいだ」と言われた
―― 今回、村井先生が総監修を務められた『角川インターネット講座』全15巻が10月末に完結しましたが、どのような想いを込めてこのシリーズの総監修をされたのでしょうか?
村井 インターネットは、技術の発展とそれを受け入れている社会の広がり、その相互関係のなかで発展をしてきた特殊な発展をした技術だと思います。このシリーズはそういった視点で、社会全体からインターネットを見ていく構成となっていますので、とても特徴のある講座になったんじゃないかと思います。
―― 確かに、TCP/IPの技術のみを扱う新書などは今までにもありましたが、村井先生をはじめ、Rubyのまつもとゆきひろさん、MITメディアラボの伊藤穣一先生などこれだけ蒼々たる執筆陣で、幅広い領域をカバーしたシリーズは今までに例がなかったと思います。
村井 私は1992年から、日本でインターネットの国際会議を開いています。社会科学者やビジネスの方もたくさん出席されており、そこから長いつきあいが始まっている方がいらっしゃいます。そんな各分野の専門家の方々に、それぞれの視点から一冊ずつ監修していただければ書籍シリーズが作れる――そんな確信を持っていました。
―― それだけ長い間尽力されてきた村井先生だからこそ、実現できた講座というわけですね。
村井 以前から、インターネット上で悪いことが起こる度に「村井のせいだ」って叩かれていたんですよね(笑)。“インターネットで何かが起こったら村井のせいだって言っておけばいいだろう”という雰囲気がずっと世の中にはあったんですよ。
つまり、私がインターネットの言い訳のシンボルみたいな役割を果たしてきたわけです。そういう意味で、今回は貢献をしようという気になりました。
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角川インターネット講座 (1) インターネットの基礎情報革命を支えるインフラストラクチャー村井 純、砂原 秀樹、ヴィントン・グレイ・サーフ(著)KADOKAWA/角川学芸出版
「機械のくせに偉そうだ」
当時はコンピューターが嫌いだった
―― 村井先生はインターネットがなかった時代に、ネットワークの研究を開始されたと本書にも書かれていましたが、そのきっかけは何だったんですか?
村井 当時、コンピューターが嫌いだったんですよ。
なぜかっていうと、コンピューターって計算する機械でしょ、でも当時はとても高くて、希少すぎる存在だったんです。
だから人間が、コンピューターの都合に合わせて計算してもらうっていうのが当時の使い方だったわけです。機械のくせに偉そうだとずっと思ってました。
やはり人間が中心となって、その周りでデジタルテクノロジー、コンピューターサイエンスが貢献していくのが正しい姿だろうと思ってました。
それを実現するにはコンピューターがみんなつながって、人間のために貢献することを目指していくべきだと考えました。そういう意味ではインターネットは出発点ですよね。
―― 日本のインターネットの先駆けとして、1984年にJUNETを設立しました。そこから30年が経過しましたが、当時、インターネットがここまで発展すると先生は予想されていましたか?
村井 まず、世界中のコンピューターがつながるってところまでは、当時から考えていました。ただ、そのとき考えていたコンピューターは、コンセントから電源を供給して動作する大きな筐体で、イーサネットのケーブル経由でネットワークにつながるというイメージだした。
やはり、一番裏切られたのはバッテリーと無線ですね。まさか、こんなポケットに入るコンピューターが無線でつながって電池で動き、インターネットのインフラになるとは、ちょっと予想できなかったですね。
(次ページでは、「インターネット全体は氷山のようなもの」)
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