同社初のD級アンプ、ESS製DACに独自デジタルフィルターを追加
マランツが「HD-AMP1」を発表、コンパクトでも本物のHi-Fアンプを凝縮
2015年11月04日 14時00分更新
コンパクトだけど、本物指向のHi-Fi機器
マランツは11月4日、「HD-AMP1」を発表した。USB-DAC機能を内蔵したプリメインアンプで価格は14万円(税抜)。12月上旬の発売を予定している。秋のヘッドフォン祭 2015でも参考展示していた。
ヘッドフォンアンプ内蔵のUSB DAC「HD-DAC1」(関連記事1、関連記事2)に続く製品。1990年代に存在した"MUSIC LINK SERIES"のブランドを復活し、既存のHi-Fi製品とは異なる、新しいカテゴリーの製品としてシリーズ化する。
大きな特徴としては、70W+70Wのアンプを内蔵すること。外観はHD-DAC1のイメージを踏襲しているが、内部は一新。高級機の開発で培った技術やノウハウを用い、フルサイズのプリメインアンプに近い構成を盛り込めたとする。
一体型筐体であるため、高品位のスピーカー再生を省スペースで楽しめる。マランツでは、高品位なスピーカーとともにリビングにさりげなく設置する用途に加えて、ヘッドフォンを併用するデスクトップ再生も想定している。本体は幅304×奥行き352×高さ107mm。幅250mmのハーフサイズだったHD-DAC1に対して、LPジャケット(幅313×奥行き315mm)並みのフットプリントになった。
デジタル入力は前面にiPhoneやUSBメモリーなどを接続するためのUSB-A端子、背面にパソコン接続用のUSB-B端子、同軸デジタル、光デジタル端子×2を持つ。ほかにアナログ入力端子も2系統備えている。
アナログオーディオ回路ではフィルムコンデンサーに加え、パワーアンプ用デカップリングコンデンサーにニチコン製のMUSEシリーズの最高級品を使用するなどオーディオグレードのパーツを多用。マランツ独自のスピーカー端子「SPKT-1」に加え、HD-DAC1と同じアルミダイキャスト製フット、真鍮削り出しのピンジャックなどを使用している。回路構成も上級機に準ずるとのこと。
豊富なデジタル入力を備えているが、音決めに際しては、アナログ入力から始めたという。「一番自信があるのは、アナログ入力時の音」(マランツ サウンドマネージャーの澤田龍一氏)だそうだ。検証用に組み合わせるスピーカーは開発当初、「B&W 800 Diamond」だったが、後半から「B&W 802 D3」(関連記事)となった。802 D3を使って音決めした製品としては最初に市場投入される。小型の筐体だが、Hi-Fiメーカーが作った渾身のDAC内蔵アンプと言えそうだ。
マランツの音にするため、デジタルフィルターから作った
マーケティング部の上田部長によると、HD-AMP1は「HD-DAC1から続く、マランツとしての新しい提案商品。過去にこういう製品を出すときは、必ず技術提案を一緒にしてきた。この商品も同様」とのこと。
特徴のひとつは、マランツとして初めてESS Technology製のDAC ICを採用したこと。型番はESS9010K2Mで、最大11.2MHzのDSDや最大384kHz/32bitのPCMなど最先端の配信フォーマットに対応できるチップだ(光/同軸デジタル入力時は最大192kHz/24bitのPCMのみ対応)。
さらに面白いのは「MMDF」(Marantz Musical Digital Filtering)と呼ぶ、独自にプログラミングしたデジタルフィルターを持たせた点。マランツでは1998年発売の「CD-7」ごろからデジタルフィルターを独自に開発し、搭載してきた。HD-AMP1でも「SA-11S3」や「NA-11S1」などハイエンド機向けに開発したデジタルフィルターを採用し、マランツらしい音を作りだそうとしている。
「ESS製のDACはマランツでも早い段階からテストをしていて、結果もよかったが、搭載する機会に恵まれなかった。9010K2Mは最新ハイレゾスペックが通ることに加え、オリジナルのデジタルフィルターを入れられる点が非常にユニーク。シャープ/スローの基本パターンに加えて、ハイエンド機向けに開発したフィルターを独自に入れ込める点がとても大きな利点になる」(澤田氏)
HD-AMP1ではFILTER1にシャープ・ロールオフ型、FILTER2にスロー・ロールオフ型のデジタルフィルターを用意しているが、シャープ型でも立ち上がりが早く、ゆっくりと立ち下がる非対称型としている。「ストレートでカチッとソリッドな音を持ちながら、輪郭やエッジがはりすぎない自然な音調を出すハイブリッド的なパターン」とのこと。ESS標準のパターンと比較したが、オリジナルで作ったほうがマランツトーンに近いと感じられるとのこと。
なお、ESSのDACは電流出力型であるため、電流/電圧変換回路を外付けする必要がある。回路の規模が大きくなってしまう点はコストやサイズ面ではデメリットにもなりうる。しかしマランツとしては、ここで音の品質の操作や独自の料理ができるので「むしろウェルカムだ」という。
最終段を除けば、ハイエンドのアナログアンプと同じ
特徴のもうひとつが、マランツのHi-Fi向けコンポとして初めてスイッチングアンプ(D級アンプ)を採用したことだ。アンプ部分は当初、「M-CR611」(関連記事)と同じものを考えていたそうだが、「やっていくうちにマランツならではのアンプにしたいという欲が出てきた。本格的なスイッチングアンプを使ったアンプというのはマランツでは今までない。であれば従来の踏襲ではなく、マランツらしさを打ち出すため、徹底的にやることにした」(澤田氏)という。
パワーアンプ部分の最終段にHypex Electronics製の汎用モジュール(Hypex UcD)を採用した。サウンドマネージャーの澤田氏は「Hypexのサイトにはフィルターの後ろ側からフィードバックするので、スピーカーのインピーダンスにかかわらず特性が変わらないとある。しかしその解説は教科書的で当たり前。選択の理由としては、1点音がいいから。非常にアナログ的な音がする」とコメントした。
モジュール選定に際しては、デノンが「PMA-50」などで採用したDDFAも検討したそうだが、目的はスイッチングアンプにすることではなく、あくまでも小型の筐体に収めること。ハイエンド機と変わらないアナログアンプを設計するのを基本とした。Hypexには、フィリップス出身のエンジニアが在籍。マランツもかつてフィリップスの傘下にいたため、お互いよく知っている関係だという。
ただし、Hypexのモジュールは「ゲインが10dBと低く、パワーアンプの最終段にしか使えない。入力もアナログでかつバランス構成にしないと動かないので、バランス/アンバランス変換がプリ段に必要。そこで前段をハイエンドのHi-Fi向けアンプと同じ考え方で作った。こういったハードルはあるが音の魅力がある」とした。
前段では一部オペアンプを使用している箇所もあるが、使える場所には、マランツのHi-Fi機器ではおなじみのHDAM回路を積極的に使用。ディスクリート構成にこだわっている。スイッチングアンプで小型化しただけのモデルではなく、PM-11S1に近い回路構成を封入できた、本当の意味でのプレミアムコンパクトだという。結果として当初の想定よりも高い価格帯での投入となったが、その分インパクトのある形で市場に投入されることになった。
なお、HA-DAC1は最終段にゲインゼロのバッファーを持たせるなど、ヘッドフォンアンプ部分にかなりこだわった製品だったが、HD-AMP1では、ヘッドフォンアンプ部分を独立して持たせ、ゲインのパートはOPアンプ、バッファーにHDAM-SA2を置く回路構成。3段階のゲイン切り替えを持たせているとのこと。