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PCメーカーとマイクロソフトの関係は崩壊するのか!?

「Surfaceシリーズで変化促進」の裏にある、マイクロソフトの「PC市場変革」計画

2015年10月28日 18時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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「普通のPC」を変えねば市場は拡大しない

「Surface Pro 4」「Surface Book」

 だが、「大人の事情」は最も大きな理由ではない。二番目の理由の方が、マイクロソフトとしては重要だ。

 その理由とは、「Surfaceの市場はアップルが得意とする高付加価値市場である」ということだ。一時為替の関係もあり、日本でSurface Pro 2やPro 3が非常にお買い得であったこともあるが、世界的に見ると、Surface Proシリーズは「高価で差別化要因の多いPC」である。世界を見れば、ほとんどのノートPCが700ドルから800ドルで販売されているのが実情だ。別の言い方をすれば、本誌を含めた「PCをよく知る人々が注目するメディアで人気のPCは、マス製品というわけではない」のである。

 比較的高い価格でも売れているのが、アップルのMacBook Proだ。これは、アップルファンによる指名買いに加え、クリエイターを含め、「その機械でお金を稼ぐ」層が選んでいるということが大きい。別の言い方をすれば、「高機能で高付加価値型のPC(Mac含む)については、アップルのシェアが高い」ことを示している。

 マイクロソフトは、Surfaceシリーズを「付加価値型PC」と位置付けている。となると、正面からぶつかるにはアップルであり、MacBook Proをベンチマークとするのは当然、ということになる。特にSurface Bookについては、その市場に正面からぶつかりに行き、市場開拓を目指している。唯一、Surfaceシリーズの中でも「Surface 3」が低価格路線だが、これはPCというより、むしろiPadを仮想敵としており、だから「何より価格を抑えることが必須だった」(ホール氏)という事情もある。

 日本のイメージで考えると、モビリティの高いPCの価値は大きく、SurfaceはLet's noteやVAIO Zなどが競合として脳裏に浮かぶ。だが、それらの機器は世界的に見ると市場が小さく、Surfaceの仮想敵にはなりえていない。

 PCの必要性は誰もが認めるところだが、「壊れない限り買い換えない」機器になってもいる。そういう、消極的に選ばれている市場がPCの中心であることが、市場全体の成長を阻害している。

 マイクロソフトがSurfaceで高付加価値を狙うという、ある意味「手堅い」やり方の裏には、そこからのシャワー効果が一般的なPCの姿を変えていけば……という意図がある。自社で特徴的な市場の成長をリードしつつ、「ペンを生かした2-in-1」の使い勝手をあげ、当たり前の存在へと押し上げることで、PC市場全体の成長と変化を促進したい、という戦略なのだ。


西田宗千佳(にしだ むねちか)

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。

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