スーパーコンピューターの系譜。今回からは、これまで取り上げてこなかったスーパーコンピューターのシリーズを紹介したい。まずはBurroughsのBSPである。
9大メインフレームメーカーのうちの1社
Burroughs
Burroughs(バローズ)という会社は、古い人なら聞き覚えがあるかもしれない。ちなみに創立時の名前はAmerican Arithmometer Companyなのだが、創立したWilliam Seward Burroughs氏が1898年に逝去した際に社名をBurroughs Adding Machine Companyに変え、それが残った形だ。
さらに余談であるが、このWilliam Seward Burroughs氏の孫がWilliam Seward Burroughs II、日本では「裸のランチ」とや「ジャンキー」などの著作で有名な作家ウィリアム・バロウズである。
なぜ会社は「バローズ」なのに人名は「バロウズ」なのかは謎だが、最初に翻訳した人の訳し方がそのままになっているのであろう。
Burroughsそのものは“Burroughs Adding Machine Company”(バローズ加算器会社)という名前からもわかるとおり、機械式計算機を作る会社で、そこから事務機械全般に手を伸ばし、最後にコンピューターに移行することになった。
このあたりはIBMがパンチカードを作る会社からスタートし、途中さまざまな事務機械(IBMの電動タイプライターは、古い人には大変懐かしいと思う)などに手を出しつつ、最終的にコンピューターメーカーに移っていった歴史に近いものがある。
1960年代、米国には大きく9つのコンピューターメーカーがあった。IBM、Honeywell、NCR Corporation、CDC、GE、DEC、RCA、Sperry RandとBurroughsである。
このうちDECはメインフレームを製造しておらず、残った8社のうちIBMを除く7社の売り上げ合計を足してもIBMに及ばないということで、“IBM and the seven dwarfs(IBMと7人の小人)”という呼ばれ方をしていた。
CDCのその後は、連載274回で説明した通り。Honeywellは防衛産業に傾倒してゆき、最終的にコンピュータ事業を仏Bullに売却してしまう。NCRはAT&Tに買収され、RCAもGEに買収される。Sperry Randはその後UNIVACと名前を変え、さらにBurroughsと合併してUNISYSとなる。
GEは? というと、あっさり計算機ビジネスから撤退。DECもCOMPAQに買収され、その後HPに買収されるといった具合に跡形もなく消えている。
それはともかくとして、こうした企業統合の中で、それでもメインフレーム向けの製品ラインを維持しているのはIBMとUNISYSのみである。
※お詫びと訂正:記事初出時、Honeywellは最終的にGEに買収される。と記載しましたが、正しくは仏Bullに売却となります。記事を訂正してお詫びします。
1972年当時、3100万ドルかけて開発し
15MFLOPSの性能だった「ILLIAC IV」
話をBurroughsに戻そう。同社の主力製品はメインフレーム機で、1961年に発表したB5000以降B5500、B6500/6700、B7700、...と数字を増やすごとにどんどん性能を高めたシステムをリリースする。
その一方、B2500やB1700、B700...と性能を下げた小型かつ廉価なマシンもラインナップしていき、1980年代にはIntel 8086/8088をベースにしたB20/B25というパーソナルコンピューター(IBM PCとは互換性なし)を出すなど、幅広い展開を見せていたのは、コンピューターメーカーとしては当然だろう。
そしてラインナップを増やすとなると、当然科学技術計算向けのスーパーコンピューターも視野に入ってくる。
もっとも同社の場合、ここでいきなり黒歴史入りのモノが出てくる。インテルのParagonを解説した連載283回の時に、イリノイ大学のILLIAC IVという悪評高いシステムがあることを紹介した。実はこのILLIAC IV、イリノイ大学とBurroughsの共同開発なのである。
ILLIAC IVは128プロセッサーものシステムで、「ヘネシー&パターソン コンピュータアーキテクチャ 定量的アプローチ」(通称:ヘネパタ本)によれば、64個の64bitプロセッサーを並べて巨大なSIMD演算をさせるという、ある種猛烈な構成だったらしい。
最初は1000MFLOPSを実現する計画だったが、1972年に安定稼動時の実性能は15MFLOPS程度。コストは1966年には800万ドルと見込まれていたのが、1972年には3100万ドルまで膨れ上がったという。
ちなみにヘネパタ本によれば、この金額を2011年の貨幣価値に直すとそれぞれ5400万ドル、1億5200万ドルに相当するとの話だった。これだけの金額をかけて15MFLOPSでは、さすがに「もっとも悪名高いスーパーコンピューター」とまで言われても仕方がないかもしれない。
もっとも1度の失敗でへこたれていたら話にならないわけで、ILLIAC IVの開発作業がほぼ完了した1973年の初頭に、Burroughsの開発陣は次のアーキテクチャーに取りかかる。4年後の1977年にこれはBSP(Burroughs Scientific Processor)として発表された。
→次のページヘ続く (複数のスカラープロセッサーでベクトル処理を可能に)
この連載の記事
-
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ