取り組まざるをえない社会的背景とは?
人口急減、育児、地方創生――総務省「ふるさとテレワーク」の狙い
2015年09月28日 09時00分更新
総務省の「ふるさとテレワーク」が始まった。
各地域・団体による地方でのテレワーク実践を通じて、その有用性を実証するプロジェクト。2015年7月7日に委託先の事業者が決まり、全国15地域で実証実験が始まっている。
目的は、地方に暮らしながら、地方の仕事を奪わず、都会と同じ“いつもの仕事”を実現することで、「人材を地方に誘致するというパラダイムシフト」が狙いとなる。
大事なことは、地方創生は流行りだからやるのではなく、やらざるを得ない深刻な社会的背景があるということ。そのために「ふるさとテレワーク」はどのような目的で、どのように進められるのか――。
総務省 情報流通行政局 今川拓郎氏の講演(ワークスタイル変革Day 2015)では、そのあたりが分かりやすく解説された。そこから「ふるさとテレワーク」の経緯と狙いをひも解いていく。
再び脚光を浴びる「テレワーク」
テレワークは「ICTを活用した、場所や時間にとらわれない働き方」と定義される。テレワークマネジメント代表の田澤由利氏によると、その分類は、社員が在宅で行う「雇用形」「在宅型」だけでなく、「自営型」「モバイル型」も含めた多様な組み合わせとなる。分類には「クラウドソーシング」が含まれるのも面白いところだ。
テレワークには社会、企業、就業者それぞれにメリットがあるが、「最近は特に、ワークライフバランス、育児・介護、地域活性化などが新たなメリットしてクローズアップされている」(今川氏)。
その言葉通り、数十年も前から言われ続けているテレワークが、最近になって再び注目を集めている。その理由は、いくつかの「社会的背景」とそれに伴う「機運の高まり」があるからだ。
背筋が寒くなる「人口急減」の実態
最大の社会的背景は「日本の人口減少」である。日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、この先は坂道を転げ落ちると予測されている。
その推移を示した有名なグラフがある。
これによると、2050年には1億人を、2100年には5000万人を下回る。高度経済成長期の爆発的な人口増加分は“なかったこと”となり、それ以前の明治維新ごろの水準まで落ちてしまうのだ。このグラフを初めて見たとき、背筋が寒くなったのを覚えている。
さらに「統計は外れることも多いが人口統計だけは唯一例外で、世代毎の人口や出生率などの緻密なデータに裏打ちされているため、幅はあっても傾向は変わりようがない」(同氏)というから深刻である。
もはや「下り坂」を織り込んだ手立てが必要なのだ。労働力はこれまでよりも裾野を広げて考えなければならない。そこで焦点となるのが「女性と高齢者の活躍推進」である。
ママも高齢者も「働きたい」
女性の労働力率は、第一子出産を機に6割の女性が離職し、30代前半(子育て期)で低下する「M字カーブ」を描く。その一方で、就業希望者を加えた潜在的労働力率は高いと見られている。
高齢者についても「働けるうちは何歳まででも働きたい」というニーズが4割以上と高く、収入はわずかでも無理のない範囲で働ける就労形態を望む声が多いという。
「こうした女性や高齢者の働きやすさという観点から、テレワークの社会的ニーズがあるのかなと考えられる」(同氏)。
課題はテレワークの導入率
課題は、テレワーク導入企業が11.5%に過ぎないことだ。大企業(資本金50億円以上)だけでみると50.9%と進んでいるが、中小企業(資本金1000万円未満)が2.5%と振るわず、全体としては1割にとどまっている。
また、導入済みの企業でも、実際に利用している従業員は5%未満というケースが大半を占め、依然として「部分的導入」がほとんど。
導入が進まない理由は、「テレワークに適した仕事がない」が72.1%で最多(総務省調べ)だが、「実際にやってみるとうまくいったりもするので、先入観含めた意識の改善が求められる」(同氏)という。
「セキュリティ」や「マネジメント」への懸念も足かせとなっており、「マネジメントに関しては『コミュニケーションに支障がでる』『社員の評価が難しい』などは昔から言われ続けていることで、その辺りの課題がまだ残っているのだろう」と今川氏は語る。
(→次ページ、テレワークへの機運は確実に高まっている)
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