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スマホの発熱に効果! 業界最薄の断熱シート「NASBIS」&放熱材「グラファイトシート」

2015年07月02日 17時00分更新

文● 大河原克行、編集●ハイサイ比嘉/ASCII.jp

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 パナソニックは、業界最薄の高性能断熱シート「NASBIS」を開発。6月から国内で量産を開始した。また、放熱材である「グラファイトシート」(PGS=Pyrolytic Graphite Sheet)も製品化し、NASBISが備える断熱と、グラファイトシートが持つ放熱という異なる特徴を生かすことで、スマホをはじめとする電子機器の熱対策に有効な素材として、提案を加速する考えだ。

 では、これらの素材とは、どんなものなのだろうか。

 NASBISは、「NAno Silica Balloon InSulator」の頭文字をとったもので、業界最薄となる100μmのシートとして提供。わずかな隙間を利用して熱を止めることができる。具体的には、スマホの熱を防ぐという点で威力を発揮する。

NASBISをスマホの筐体に貼り付した状態

 一般的に断熱材は、建材から車載、家電分野などに利用されてきた。だが、数mmから数cmの厚みが主流であり、電子機器など小型のものへの利用が難しいという課題があった。

 「小型化、薄型化、高性能化する電子機器では、ヒートスポットへの対策や発熱部品からの煽り熱の問題が深刻化している。薄くて高性能な断熱材への要求が高まっている。

 NASBISは1mm以下のスペースの狭小空間を断熱する新たな断熱材であり、スマホで利用されるCPUや電源回路、カメラモジュールといった熱源部分にNASBISを置くことで、筐体表面のピーク温度の低減が可能になる。基板とディスプレイの間に、NASBISのシートを1枚挟み込むだけで、低温やけどのリスクを回避でき、熱によるディスプレイのパネルの色ムラをなくし、さらに、熱課題によって制限されていたパフォーマンスの課題も解決できる」(パナソニック 生産技術本部生産技術開発センターの酒谷茂昭リーダー)という。

スマホのディスプレイと基板の間、そして手に持つ筐体カバーに貼付することで断熱と放熱を行う

NASBISは1mm以下のスペースの狭小空間を断熱する新たな断熱材であり、スマホで利用されるCPUや電源回路、カメラモジュールといった熱源部分にNASBISを置くことで、筐体表面のピーク温度の低減が可能になる

 説明会で行われた実験では、約50度の温度のヒーターの上に、NABISを乗せるだけで、表面温度を約35度にまで下げることができた。

 NASBISは、断熱性能が極めて高いシリカエアロゲルと呼ばれるナノ多孔体を繊維シートの空隙に埋め込み、均質にシート化する独自の製造プロセスを開発したという。

NASBISの原料となるシリカエアロゲル

 「ここで利用している繊維シートは、国内メーカーと共同開発したものであり、シリカエアロゲルは、空気が動きにくく、熱が伝わりにくい。熱伝導率は、0.02W/mKであり、個体の中でも最も熱伝導率が低い物質である。変形して孔が潰れることがなく、発泡系シートでは課題なっていた押圧による熱伝導率の変化も少ない。また、ゲル化したシリカナノ多孔体を化学処理すると撥水性が高まるという特徴も備える。無機の物質であり、吸湿や熱による経時劣化が少ない。長期間に渡って高い断熱性能を維持できる」という。

 NASBISは、製品化に向けて国内18件の特許を取得。今年6月から、北海道千歳市の工場で、スマホ換算で月500万台分の量産を開始。今後は、NASBISのさらなる薄膜化や耐熱性も難燃性を高める開発を進め、車載や産業分野への展開を図っていくという。

 現在、A3サイズまでのシートを生産できるが、これは生産設備による制限であり、今後応用範囲が広がることでサイズの拡大も視野に入れているという。さらに、厚さ200μm、500μm、1000μmのNASBISも、順次、品揃えする予定。

熱伝導性は銅の2〜4倍、ダイヤモンドに匹敵する
「グラファイトシート」

 一方、グラファイトシートは、高い熱伝導率を持つもので、NASBISとの複合化により、各種機器の熱対策におけるソリューション提案が可能だ。

グラファイトシート

 たとえば、熱伝導性の高さを利用して、発熱源から離れたところに熱を運ぶことで、放熱性を高められる。熱源であるCPU部と、放熱のためのヒートシンクをグラファィトシートで結ぶことで熱を効率的に放熱。また、熱源とヒートシンクの間にグラファイトシートを挟んでも効率的な放熱が可能になる。

 グラファイトシートは、高分子フィルムを熱分解して製造するもので、結晶性が良く、面方向の熱伝導に優れるという特徴を備える。

 「熱伝導性は銅の2〜4倍となり、ダイヤモンドにも匹敵する。グラファイトシートで作った板を、氷に縦に当てると、人の温度が伝わって、きれいに氷を切断できる」(パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社デバイスソリューション事業部 主幹の長谷裕之氏)。

グラファイトシートの技術を使った板では、手の熱が伝わって氷が切れる

 さらに折り曲げに強く、曲面や角部に使用するのにも適しているという。一度折っても、元に戻すことも可能だ。スマホ内部の複雑な形状や筐体デザインにあわせ容易に加工できる柔軟性も備える。また、炭素が99.9%を占め、長期使用にも適しているという。

 こうした特徴を持つグラファイトシートと、NASBISを複合的に使用することで、熱輸送中の熱散逸を低減でき、熱の方向制御が可能になるとした。

NASBISとグラファイトシート(黒い部分)を組み合わせてパッケージ化した例

NASBISとグラファイトシートの組み合わせが最も熱を逃がす

 「熱方向制御を可能とすることで、熱拡散とNASBISの優れた断熱性能を融合。狭小空間の局所的なヒートスポットの熱を抑制し、電子機器の筐体表面の温度低減に貢献。パナソニック独自の熱対策ソリューションを提供できる」という。

 スマートフォンやウェラブル機器、家電製品、車載機器、産業機器などに応用でき、それぞれの顧客にあわせた形でのカスタマイズに対応していくとした。

 「自動車のハンドルも夏場は熱くなる。この熱を逃がすといった使い方もできるだろう。また、撥水性を利用すれば靴などにも応用できる。将来的には飛行機全体をNASBISとグラファィトシートで囲めば、効率的な熱伝導が実現できるかもしれない」(パナソニック 生産技術本部生産技術開発センター リーダーの酒谷茂昭氏)

NASBISの繊維シートは撥水性があり、水を染み込ませないという特性もある

 なお、グラファイトシートは、2014年度の文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞している。


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