ぐっと腰の据わった低域と透明感あふれる高域
JrといってもやはりAstell&Kern
というわけで、いよいよ音楽を聴いてみる。
AK Jrが使用するWolfson DACも第1世代機で使い慣れているチップであり、透明感のあるサウンドには評価が高かった。筆者は過去にAK100を常用し、現在はAK240を中心に使っているが、キャラクターには違いがあった。
AK Jrで上位機とはまた違った傾向のサウンドを楽しめるということなら、併用して使い分けるというのも面白いだろう。出力インピーダンス2Ω、出力レベル1.95V(RMS)の低インピーダンス高出力設計のため、対応ヘッドフォンもかなり広そうだ。出音への期待感が高まる。
まずはAurisonicsのインイヤーイヤフォン「ROCKETS」と組み合わせて聞いてみる。ROCKETSは同社がマイクロダイナミックスピーカーと呼ぶ直径5.1mmのダイナミックドライバーを使用。フルレンジタイプの素直な傾向で、切れのある低域の再現に加えて、BA的で繊細な中高域の表現も得意となっている。プレーヤー側の品質を的確に示してくれるはず。
ボーカル、ロックと聞き進めていくと、薄型の本体からは想像できないほど、躍動感があってパワフルな再生である点にほほが緩む。女声ボーカルなどではWolfson DACらしい雑味のない高域だが、一方で中低域は芯が通っている。たとえばキック、ベースといったリズム帯が明晰にビートを刻むし、チェロやピアノといったアコースティックな楽器もしっかりとした低域に支えられ、かつディティールを適切にトレース。適度な硬さというか、楽器特有の質感を曖昧にせず克明に描写してくれる。
このあたりはやはりハイエンド機の開発の経験が生かされているのだろう。同じWolfson DACでも第1世代機で感じた細さはない。また、ディティールの再現には単にDACチップを選んで乗せればいいというのではなく、アナログ回路を吟味し、干渉を減らし、よりノイズを減らしていくための試みが必要だ。このサイズでもAstell&Kernの名を冠しているだけの理由があるのだと、AK Jrのサウンドを聴いて実感した。
次に「SHURE 1540」や「SENHEISER HD25-1 II」などオーバーイヤータイプのヘッドフォンと組み合わせて聴く。こちらもすいすいと駆動。そして音には大型ユニットならではのゆとり感が出てくる。特にHD25-1 IIとの組み合わせでは、ヘッドフォンそのものの能率の高さもあって、残響で高音がふわっと消え去る瞬間などを緻密に表現する。切れのよさだけではなく、繊細さや透明感を兼ね備えたプレーヤーという実感を新たにした。
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