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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第39回

【後編】『SHIROBAKO』プロデュース 永谷敬之氏(インフィニット)インタビュー

「SHIROBAKOを最後に会社を畳もうと思っていた」――永谷P再起の理由

2015年07月12日 15時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko) 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(C)「SHIROBAKO」製作委員会

永谷 たとえば、今年はのと鉄道で『花咲くいろは』のラッピング列車を走らせたのですが、これはどこからか宣伝費が出ているわけではなく、うちの会社が――僕がそうしたいから自費でやった企画です。

―― ビジネスの仕組みとしてはどんなものになりますか?

永谷 単純化してお伝えすると、うちは、商品化をして回収したお金の利益を宣伝費に充てています。逆に言えば、うちの会社的に大きく帳尻が合いさえすれば、過去作品に投資することは可能なんです。

 これが、うちが重宝していただいている理由でもあると思いますが、過去作品で(大がかりな費用がかかる)ラッピング列車を走らせるようなことは、ほかの会社では難しいかもしれません。

 これは2つの理由からです。

 1つは、製作委員会方式では2年経った作品に宣伝費を投下することは難しい。Blu-ray、DVDパッケージの最終巻が出た段階でビジネスとしては1回終了という形になりますから。

 もう1つは、タイミングですね。「『花咲くいろは』のファンが石川県に舞台探訪に来てくださっているので、今投下しなきゃ、この瞬間すぐやらなきゃ」と言われても、大きな組織ではなかなか難しいと思います。

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会社をつくった最大の理由は
作品にとってのジャストタイミングで仕掛けるため

―― それはなぜですか?

永谷 組織に属していると、タイミングを逸することのほうが多いと思うんです。いわゆる段取りを踏みます。企画書を上げて、稟議を通して、みたいな話になる。

 そして最大のハードルとしては「これはどうやって回収するんだい?」という話になるわけじゃないですか。会社である以上、ラッピングをしたことによって、どんな利益として跳ね返ってくるのかというのは、会社としては気になりますよね。

 けれども、回収しませんよと。「(その代わり)この費用はうちで持ちます」と委員会の方に言えば、誰の腹も痛まない(笑)。個人会社なので、僕の裁量でできる。そこが強みですね。

「のと鉄道の車両はフルラッピング。車体全体にシールを貼り巡らせていますので、通常のラッピング電車とはひと味違います(笑)」

―― でも、御社の腹は痛むかもしれない。「費用うち持ち」とはいえ、お金が回収できなくてもやるというのは、企業のあり方としては少々特殊なように見えますが。

永谷 僕個人の趣味ですよね。もう。

―― 趣味!?

永谷 全部で6両しかない鉄道会社の車輌の半分をラッピングしたい。それをみんなが喜んでくれたらうれしい!

 うちの会社は、いろんな人に話をすると、謎な会社だと言われます。何がしたいのかという理念に関しては、「自分が好きなことをやりたい」と明確な一文で片付くのですが、会社としてどうなのと言われたら、「それは知りません(笑)」。企業体としては不健全かもしれません。

 けれども、「エンタメ産業ってノリと勢いでしょ」ってところがあるわけですよ。今ここで、こういうものが求められているから、この瞬間に投下すれば話題になるかもしれないというときに、稟議を通すだなんだで「2ヵ月先になります」では……2ヵ月先まで話題になっている確約はないわけです。

 ですからそれを「僕がやりたいです、以上。」で終わらせるために、うちは会社になっているんです(笑)。

 人からはたまに「青くさいね」と言われることもあるけれど、会社をつくった最大の理由は、自分が好きなアニメを自分で好きなように運用したいからですし。

 「製作委員会が解散した後は、うちが宣伝を引き受けている」と言うと、おこがましく聞こえるかもしれないけれど、その先にあるのは、そもそも企画に乗ってくださった製作委員会の皆様にうちができることといったら、そのぐらいしかない、というのもあるわけです。

(次ページでは、「「後世に残したい」とは『絶対に売ってやる!』という覚悟を示す言葉」)

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