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業界人の《ことば》から 第128回

オラクルが、サン・マイクロシステムズの買収を完了し、ちょうど5年

2015年01月28日 01時19分更新

文● 大河原克行

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今回のことば

「Engineered Systemは、ハードとソフトの抱き合わせではない。仏教用語でいえば無分別智の状況」
(日本オラクル・杉原博茂社長)

 2010年1月27日は、オラクルがサン・マイクロシステムズの買収を完了した日だ。今年はそれからちょうど5年を迎えた。

 昨年4月に日本オラクルの取締役代表執行役社長兼CEOに就任した杉原博茂氏は、「社長に就任して10カ月を経過してわかったのは、サン・マイクロシステムズを買収以降、オラクルは、ソフトウェアにEngineered SystemやSPARCといったハードウェアを抱き合わせで売るのではないかと、長年言われ続けてきたこと。だが、そうではない。仏教用語でいえば、無分別智の世界に入ってきた」と語る。

日本オラクルの杉原博茂取締役代表執行役社長兼CEO

 いきなりの仏教用語の聞きなれない言葉に驚いたが、無分別智とは、物事を分けて捉える分別知を、究極まで突き詰めていくと、分別の本質を理解したうえで、分別を超えた理解ができるようになる状況を指すという。

 「これをコンピュータの世界に当てはめると、分別知というのは、ハードウェア、ソフトウェアというように分けて理解することになる。だが、この考え方を究極にまで突き詰めていくと、分別がなくなる。これが無分別智ということになる」と前置きし、「昨年、私はラリー(=米オラクルの創業者であり、取締役会経営執行役会長兼CTOのラリー・エリソン氏)と、10回以上会っているが、ラリーの考え方は、ソフトウェアの会社が、それを究極に突き詰めていくと、ハードウェアだ、ソフトウェアだ、という世界がなくなり、無分別智になるということ。それによって、ハードやソフトの垣根がないサービスを提供することができる」

 これと同じことは、アップル創業者である故スティーブ・ジョブズも言っていたと、杉原社長は指摘する。

 ハードとソフトが融合することで、顧客やパートナーから見える姿がサービスになる。これがコンピュータ産業における無分別智というわけだ。実際、アップルが実現した世界は、ハード、ソフト、サービスが一体となったものであり、それによって利用者はこれまでとは違う体験を手にすることができた。

「1月29日には、第5世代のEngineered Systemを日本で発表する。5年間突き詰めていった結晶が、今回発表する製品になる」と、杉原社長は位置づける。

 第5世代のEngineered Systemでは、もうひとつ新たな考え方を披露する予定だという。

093 日本オラクルが新たな作成したポスター。「他社はクラウドの雲をグレーにしており暗い。赤で明るくして、全体をハートにした。心にコミットする」と説明

それは、新たに発表する予定の「スーパークラウドシステムズ」という名称に込められているようだ。

「クラウドのなかで、ハードウェアをどう位置づけるかが明確ではなかった反省がある。そこで、オラクルがこれから投入するハードウェアはすべて、スーパークラウドシステムズと呼ぶ。新たに発表する第5世代のEngineered Systemも、スーパークラウドシステムズを構成するものになる」

オラクルは、クラウドにおいて、ナンバーワンになることを標榜した。そのなかで、ハードウェアが、クラウドと融合するといった考え方を打ち出したものとも受け取れる。これも無分別智といっていいだろう。

そして、経営戦略の軸に据えるクラウド事業も、一気に加速させる考えを示す。

 「私は就任早々、VISION 2020を掲げ、クラウドでナンバーワンになることを宣言した。最初はなにを言っているのかと思った人も多いだろう。だが、昨年9月に、米サンフランシスコで開催したオラクルオープンワールド2014では、ラリーやマーク(=米オラクルのマーク・ハード社長)、サフラ・キャッツ(米オラクル社長)が、今年は、オラクルにとってクラウド元年になるといい、オラクル全体としてクラウドナンバーワンを目指すことを宣言した」

 オラクルは、クラウドサービスのラインアップを一気に拡張している。

 「Service Cloud、Sales Cloud、Document Cloudのほか、デジタルマーケティング、HCM、ERP、EPM、などを用意している。さらに、Database as a Service、Middleware as a Service、Java as a Serviceなどもラインアップした。これまでオンプレミスで提供していたものをクラウドに切り替えるだけで、これだけのサービスを提供できる。なかでもJavaについては、Java自転車、Java冷蔵庫、Java自動車、Javaテレビ、Javaゲーム、Javaスマートフォンといったものが登場し、IoTやビッグデータの世界においても、Javaが不可欠になっている。この環境をクラウドで提供できる。これは他社にはできないこと」と自信を見せる。

クラウドナンバーワンをいち早く打ち出した、日本オラクルに対する期待は大きいという。

「4月9日、10日に、東京国際フォーラムでOracle CloudWorld Tokyo 2015を開催する。ここには、ラリー・エリソン、マーク・ハード、トーマス・クリアンが来日する予定だ。日本におけるクラウドの取り組みに期待が集まっていることの証」と語る。

とはいえ、ラリー・エリソン氏は、2013年には米サンフランシスコで開催されたオラクルオープンワールドの基調講演をアメリカズカップ参戦のために突如キャンセル。日本でも同年の「Oracle CloudWorld 2013」で、当初は、来日して、ソフトバンクの孫正義社長と直接対談する予定を変更。日米の中継で対談が行われたという「前科」があるだけに、エリソン氏の来日は当日になってみないとわからないというのも正直なところだろう。

一方で、日本オラクルの足元の業績は好調だ。

「ラッキーパンチを繰り出したせいもあり、日本オラクルの最新業績は、過去最高益、過去最高の売上高となった。牽引したのは、コア事業であるデータベース、ミドルウェア、アプリケーション。これらは2桁成長になっている」という。

今後の軸に据えるクラウド事業は、年間100億円に満たない規模であり、「まだ小さい」とするが、「SaaSは、500~600%伸びている。クラウドナンバーワンに向けた施策をも打っている」と事業拡大に意欲をみせる。

こちらはクラウドナンバーワンのチロルチョコ。ゴルフのショットがうまくいかないときにこれを食べると良くなると杉原社長。「念が入っているチョコ」とした

一例として、こんな取り組みを明かす。

「米国、南米、欧州にはPaaSのデータセンターがある。オラクルのクラウドを全世界で縦横無尽につかってもらえるようになれば、日本の企業の稼ぐ力を高めることができる。こうした提案を加速したい」

 そして、「40%以上の高いシェアを持つデータベースにおいて、少しのユーザーがクラウドにシフトするだけでも、クラウド市場における日本オラクルの存在感は一気に高まる」

 社内にバーチャル型の横串組織である「クラウド事業戦略室」を設置して、日本におけるクラウドビジネスの「型」づくりにも取り組んでいる点も見逃せない。

 杉原社長は、今年の年頭所感のなかで、いまは第4次産業革命のなかにあり、「デジタル・ディスラプション(デジタル時代による創造的破壊)」の時代を迎えていることを示した。そのなかで、今年のキーワードに「Do, Big, Different」を掲げた。

 「時代が大きく変化するなかで、大きなこと、そして、違うことをやっていこうと考えている。少子高齢化、グローバリゼーション、さらには東京オリンピックという大きな節目を控えるなかで、日本の企業においては、1人あたりの生産性を高め、稼ぐ力を高めることが必要になっている。そのために、オラクルはありとあらゆるクラウドサービスを日本で提供する。いい意味で暴れていきたい」と杉原社長。まもなく就任1年が終了する前に、日本オラクルの新たな道筋は明確になりつつある。

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