これを採用したET6000は、最大構成ではフレームバッファへのメモリーバスが128bit幅となるものであった。また「BitBlt」を初めとして、いくつかのWindows用アクセラレーレーションも搭載された。とはいえ、「Windowsで速い」というレベルには至らず、せいぜい「あまり遅くない」という程度だった。また、135MHz駆動ではあるがRAMDACも搭載するなど、いろいろとET4000世代の欠点を潰してはいた。
ところが、肝心のMDRAMの値段が下がらないためか、市場に多く流通していたのはMDRAMを2チップのみ(2.25MB分)搭載して、残り2チップ分はソケットだけが搭載されているという廉価版ばかり。この場合はフレームバッファが64bit幅となることもあり、あまり性能面でのアドバンテージはなかった。
余談ながら、筆者もET6000を使っていた時期があった。確かに高速という感じではなかったが、比較的ドライバーの質は良く、安定して動いていたと記憶する。もっとも画質については、内蔵RAMDACの出力はあまりほめられたものではなかった。結局このあたりも足を引っ張ることになったためか、それなりに多くのOEMベンダーが採用したものの、ET6000搭載カードの流通量はさして多くなかった。
このET6000のマイナーアップデートが、「ET6100」である。RAMDACを175MHz駆動に引き上げて、24bitカラーのサポートや動画再生支援機能(の一部)の搭載、Direct 3Dの限定的なサポート、動作周波数の引き上げによる性能改善(最大25%向上という話だった)などが主な特徴であった。またTseng LabsはET4000の時代に、「VIPeR」(後にVPR4000に改称)と呼ばれる動画再生チップをリリースしていたが、ET6100の登場にあわせてこちらもVPR6000という、より高性能なものが同時にリリースされた。だがこうした努力にも関わらず、ET6100やVPR6000はコンシューマー市場ではほとんど出回ることがなく、一部UNIX系に採用されるに留まった。
製品化前に会社が撤退
しかしATIで意外な復活を……
いよいよ今回の本題であるET6300だ。Tseng LabsはET6100の後継として、きちんとDirect 3Dに対応した3Dグラフィックスコアの開発に取り掛かり、これはほとんど完成しかかった。ところがそれが市場に出る前に、Tseng Labsは財政上の理由から、「これ以上グラフィックチップの開発を継続できない」と判断してしまう。結局1998年に、Tseng Labsは同社のグラフィック部門の従業員と所有するパテント、および製品をATI Technologiesに売却してしまった。
売却後、同社は英国のCell Pathwaysという会社と合併し、医薬品の開発というまったく違う方向に転じることになる。Cell Pathwaysは2003年にOSI Pharmaceuticalsという会社に買収され、2010年にはそのOSI Pharmaceuticalsが、アステラス製薬に買収された。そんなわけで、すでにTseng Labsの欠片も残っていないのが現状である。
では「ET6300はTseng Labsを潰したから黒歴史か」というと、そういうわけではない。ET6300コアはATIに引き取られてから若干の改修を行ない、「ATI Rage 128」として出荷されたからだ。さらにそのRage 128コアをベースにハードウェアT&Lを追加したのが、初代の「RADEON 256」コアである(関連記事)。つまり、ET6300コアは非常に素性が良く、もう少し財政状態が持ちこたえれば、いろいろ逆転できたかもしれないというものだったのだ。
ではなぜこれが黒歴史か? というと、ATIはそのことを一切アナウンスしたくなかったからだ。ATIは製品ポートフォリオやパテントなどは買収したものの、商標などは一切継承しなかった。ATIはすでにそれなりのネームバリューを持っていたから、Tseng Labsの商標などなくても商売には差支えなかっただろうし、逆に技術志向の会社だというイメージを作り上げていたからこそ、「Tseng LabsからET6300コアを買収してRage 128作りました」とは口が裂けても言えなかったのだろう。かくしてET6300という名前は、Tseng Labsと一緒に過去に葬り去られることになってしまった。素性が良すぎて黒歴史、というちょっと可哀想な運命だったのがET6300というわけだ。
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