VSA-100失敗の理由とは
ハードウェアT&Lの不在と高消費電力
最終的に3dfxの息の根を止めた要因として一番大きなものは、Voodoo3での販売方針の変更(チップメーカーからシステムメーカーへの転換)であったろう、とは思う。もちろんこれがなくても、ATIやNVIDIAから競合製品が出てきて激しく争うことにはなったであろう。だが、あの時点で方針転換をしていなければ、Creative LabsやDiamond Multimediaは引き続きVoodoo3を広く販売してくれたであろうし、ひょっとするとVoodoo4/5もがんばって売ってくれた可能性もある。そうなれば、NVIDIAがあそこまで急速にシェアを広げるのは難しかっただろし、勢力図は多少変わっていただろうと想像される。
しかし、3dfxが起死回生の一打と位置づけていたVSA-100にも、かなり問題があったのは事実だ。VSA-100は元々レンダラーだけの構成であり、同社としては別にハードウェアT&L用のチップを作って、2チップ構成とすることを考えていたようだ。だがこのハードウェアT&L用チップは、結局世に出ることはなかった。
VSA-100の製造プロセスはVoodoo3と同じく、250nmを利用していた。ところが内部のレンダリングパイプラインを倍増させた結果、Voodoo3と動作周波数は変わらないにもかかわらず、消費電力も見事に倍増した。そのため、VSA-100が1基のVoodoo4は何とか補助電源端子なしで稼動したが、VSA-100が2基のVoodoo5はカード自体も大きく、さらに補助電源端子が必要だった。
ハイエンドのVoodoo5 6000になると、すでにPCの電源から供給するのは無理と判断され、外付けの「Voodoo Power」なる巨大なACアダプターが用意され、ここから電源を供給する仕組みとなっていた。競合する製品が、例えばNVIDIAのGeForce 256は220nmプロセス、RADEON 256は180nmプロセスと、より微細化が進んでおり、補助電源なしでも同等の描画性能を出していたのと好対照である。
VSA-100はまた、16bit Pixel(ピクセルの色情報が16bit値)の描画に特化しており、32bitモードを持たない構成になっていたのもやや問題ではあった。GeForce 256やRADEON 256は、いずれも16bit/32bit Pixelでの描画が可能だった。この当時は現実問題として16bit描画でさして問題はなかったが、「描画できるけど遅い」のと「描画できない」のは大違いで、もし3dfxがNVIDIAに買収されずに残ったとしても、次にはこれが問題になった可能性がある。
最後が「SLI」に関わる問題である。この当時のSLIは、現在のNVIDIAが提唱する「Scalable Link Interface」の略ではなく、「Scan Line Interleave」の略であった。元々はVoodoo2で搭載された技術で、図2のように元画面を走査線の奇数と偶数で2つに分け、各々を別のグラフィックチップで処理し、最後は1画面に構成して出力するという仕組みである。
NVIDIAのSLIやATI/AMDの「CrossFire」は、もう少し大きな単位でレンダリングを分割する仕組みであるが、いずれにしても本来の画面を適当に分割して、別々のグラフィックチップに処理を割り当てることに変わりはない。そしてNVIDIAのSLIやCrossFireがそうであるように、こうした仕組みはある程度画面サイズが大きいとか、描画オプションが重い状態でないとそれほど効率が上がらない。
ところが、Voodoo4/5ではそれほど大きな画面サイズがそもそも利用できない。3dfxとしては、「全画面アンチエイリアス、あるいはモーションブラー(残像)を利用した場合に効果が高い」といった説明をしていたが、裏を返せばこうしたものを使わない限り、それほど性能が上がらないという裏返しでもある。実際「Voodoo5 5500」とGeForce 256の性能を比較した場合、極端に3D描画負荷が重いゲームではVoodoo5が優位だが、そうでなければGeForce 256が優位という、性能のムラが出る結果となった。これはおそらくハイエンドのVoodoo5 6000では、より顕著になっただろうと想像される。
それでも業務向けマーケット向けを狙って、3dfxからスピンアウトしたQuantum 3Dが、NVIDIAによる買収直前に「4way SLI」のライセンスを受けて、VSA-100ベースの製品を引き続きリリースしている。VSA-100×8の業務用グラフィックシステムを販売したりもしたが、こちらも途中でNVIDIA GPUベースに製品を転換しており、VSA-100はここで完全に寿命が尽きた。
結果としてVSA-100は、3dfxがそう願っているほどに起死回生の一打にはならなかった。「状況が悪すぎた」という話はあるにせよ、アーキテクチャー的にもVoodoo3の延長にあるもので、Direct 3Dには対応しておらず、製造プロセスやカード設計の悪さもあって決して褒められた性能ではなかったと思う。
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