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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第23回

検索エンジンが「違法」、いつまで続く?

2008年07月01日 13時20分更新

文● 池田信夫/経済学者

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「フェアユース」が検討されているが……


 そんなわけで、検索エンジンは違法状態のままだが、実際には前述した会社のように、日本にも検索サーバーは存在する。たとえ米国にサーバーを置いても、本社が日本にあったら違法になる。著作権侵害は親告罪なので、現状では心配ないが、誰かが「日本の検索エンジンはすべて私の著作権を侵害しているので、損害賠償しろ」という民事訴訟を起したら、日本でオペレーションを行なっている検索エンジンが敗訴するリスクはゼロではない。

 問題は、これをどう是正するかだ。日本の著作権法は第30条以下で適用除外を個別に限定列挙しているので、そこに「検索エンジン」を加えるという解決策もありうるが、これでは新しい技術が出てくるたびに改正が必要になる。

 現在、政府が検討しているのは、英米法にあるフェアユース(公正利用)の規定を日本の著作権法にも設けるというもの。これは特定の使途を指定しないで、裁判所が公正と見なすものを法律の適用除外にできる規定だ。



抜本改正が必要だ


 しかしフェアユースは、判例を積み重ねてルールを決める英米の慣習法の概念で、日本のように実定法の条文を厳密に解釈する国には馴染まないという声も強い。フェアユースの定義が曖昧で判例もないと、新しい技術は片っ端から訴訟を起されるリスクもある。米国ではそういう傾向があり、「フェアユースの権利というのは、弁護士を雇う金のある人の権利だ」とローレンス・レッシグ(スタンフォード大学教授)はいう。彼の意見では、たとえ面倒でも限定列挙にしたほうが安全だという。

 そもそも検索エンジンが違法になるような法律というのは、根本的に間違っているのではないか。著作権法は、もとは18世紀初頭に出版ギルドの特権を守るためにつくられた法律だ。それが今の膨大なデジタル情報がウェブにあふれ、すべてのユーザーが著作者でもあるような時代に、300年前と基本的に変わっていないことが異常なのである。

 著作権はベルヌ条約などの国際条約で決められているので、条約を改正することは不可能に近いが、国内で完結する取引についてだけなら改正は不可能ではない。現在の原則規制、例外自由の著作権法を、原則自由、例外規制に改正すべきだと思う。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



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