キヤノン(株)の“PowerShot A”シリーズは、マニュアル露出やコンバージョンレンズに対応するなど幅広い応用が効く普及機のデジタルカメラだ。最新モデル「PowerShot A590 IS」(関連記事1)は、従来の「同 A570 IS」(関連記事2)の後継にあたるモデルで、撮像素子が710万画素から800万画素へ向上、光学式手ぶれ補正を搭載して手軽にさまざまな撮影を楽しめるのは同様ながら、各所に新機能が盛り込まれている。
ボディーデザインは従来機などと同様に大きめのグリップや光学ファインダー、操作しやすいスイッチ類などを装備する。レンズ周囲のリングはワンタッチで着脱可能で、オプションのアダプターを介してコンバージョンレンズが装着できる点も共通だ。A570 ISと比べると横幅が約5mm長く、奥行きが2mm短くなったが、横幅が増えたことは手に取ってみてもそれほど気付かないほどだ。液晶ディスプレーは2.5インチと変わりなく、上位機種である「PowerShot A650 IS」(関連記事3)などのような可変アングル機構は備わっていない。
従来機であるA570 ISと比べると本体形状はほぼそのままだが、価格を抑えるためか外装パーツの分割方式はシンプルとなったものの、グレー系でも本体とグリップでは色が異なるなど単調なデザインにならないよう工夫されている。また、“PowerShot”シリーズではここ最近リング型のカーソルキーを採用していたが、本機では十字型のキーとなった。リング状カーソルの採用は“IXY DIGITAL”シリーズなどとデザインの共通化を図る狙いがあるのだろうが、“PowerShot A”はIXY DIGITALとは違ってタッチホイール機能を備えていないこともあって、十字型のほうがむしろシンプルで分かりやすい。また、カーソル周囲にあるボタン類(MENUやDISPなど)はリング状カーソルよりも十字の中心に近い位置に移動し、操作時の指の動きを減らしているのも使いやすい。
主な新機能は同時発表された「IXY DIGITAL 20 IS」(関連記事)と同じく、顔検出の強化(顔検出ホワイトバランス、撮影時の赤目補正)やピント位置拡大、動き検出と手ぶれ検出を統合してシャッター速度や光学式手ぶれ補正量を演算する「モーションキャッチテクノロジー」や、再生時のピント位置拡大(顔検出画像では顔拡大)などだ。
機能を制限することで初心者に迷わせない
「らくらくモード」を採用
本機ならではの機能が、モードダイヤルに「らくらくモード」と呼ばれる初心者用ポジションが追加された点だ。初心者向けモードはすでに他社のカメラでも搭載しており、特に松下電器産業(株)の“LUMIX”シリーズでは早くから「かんたんモード」として採用されているが、本機の動作はそれとはやや異なっている。LUMIXのかんたんモードは、メニューなどの文字が大きくなり、記録画素数の設定項目が“引き伸ばし/Lサイズ/Eメール”に変化するなど、メニュー表記を初心者にも分かりやすくするといった具合だが、本機のらくらくモードではメニューを含めて限られた操作以外は行なえないようになる。具体的には、ISO感度はオートのみ、ドライブ(連写モード)は単写、記録画素数はラージ(3264×2448ドット)、顔検出は常時ON、手ぶれ補正もONのみとなり、ユーザーが操作できるのはズームとシャッター、フラッシュを自動発光にするか発光禁止にするかの選択だけで、MENUボタンもfuncボタンも効かなくなる。
初心者用といってもカメラのユーザーであれば“ある程度”(プログラムオート程度)の操作は理解できているのは確かであり、本当に初心者モードが必要とされるのは例えば旅先で見知らぬ相手にシャッターを切ってもらうなどの他人に貸すようなケースが多い。いくら用語を簡便にしても、誤ってMENUボタンを押すなどしてなんらかのモードに入ってしまい、シャッターが切れなくなることは考えられる。単に操作を簡単にするのではなく、必要以上の操作をさせないという割り切り方は、かなり思い切ったモードではあるが、正しい方向性と言えるだろう。
細かなスペック上の機能強化点としては、単3形電池×2本で動作するのはA570 ISと同じだが、アルカリ乾電池で約120枚、ニッケル水素充電池で約400枚だった撮影枚数が、省電力設計のおかげでさらに伸びてアルカリ乾電池で約200枚、ニッケル水素充電池では約450枚(いずれも液晶画面ON時)となった。専用リチウム充電池を用いるものに比べると撮影可能枚数が少ないという印象のある単3形電池使用のデジカメだが、ここまで撮影できれば数日の旅行にも十分対応できるだろう。カメラのコンパクト化に合わせて小型/小容量化したリチウムイオン充電池よりもむしろ撮影枚数は多く(その分本体がかさばるのは確かだが)、バッテリーの持ちを気にして予備電池を用意する必要すらなさそうだ。
