小島寛明の「規制とテクノロジー」 第407回
「予測市場はギャンブルだ」ニューヨーク州がPolymarketを提訴 “賭博”か“金融取引”か、法廷で真っ向対立へ
2026年09月29日 07時00分更新
将来の出来事を予測し、その結果を「取引」の対象とする予測市場の大手Polymarketの米国法人を相手に、米国のニューヨーク州が2026年9月24日、無許可で賭博を運営しているとして訴訟を起こした。
予測市場は、2年ほど前からその名を知られるようになった新しいサービスだ。Polymarketの日本語のサイトを見ると、極めて幅広い出来事が「取引」の対象とされている。たとえば、11月の中間選挙で民主党と共和党のどちらが多数の議席を得るか。米国とイランの停戦はいつまで続くのかという予測まで、取引の対象とされている。
選挙や世界情勢だけでなく、スポーツも取引の対象になっている。9月下旬のサッカーの各国代表による親善試合や、今年のノーベル平和賞の受賞者も取引の対象とされている。予測市場としては、KalshiとPolymarketが2大プラットフォームとして知られている。
世の森羅万象を予測し、取引ができるのが予測市場だが、ニューヨーク州はこの仕組みが賭博に該当し、Polymarketは許可なく賭博を運営していると主張する。
州はニューヨーク州の最高裁判所(日本の地方裁判所に相当)に提訴したが、Polymarketは同じ日のうちに、この訴えを連邦地方裁判所に移した。さらに、州司法長官と州賭博委員会の委員らを相手取り、州には予測市場を規制する権限がないとして、連邦地裁に訴訟を起こした。Polymarketと州の主張を詳しく見てみよう。
メジャーリーグのメッツ戦で「賭けて」みた
州が裁判所に提出した申立書には、ニューヨーク州内のアカウントから実際にPolymarketで取引した記録が、証拠として添えられている。州側は2026年7月6日、このアカウントから、メジャーリーグのメッツ対ブレーブス戦で「メッツの勝利」を購入した。
Polymarketでは、予測が当たれば1口につき1ドルが支払われ、外れれば何も支払われない。1口の価格は0ドルから1ドルの間で変動する。州側が購入したのは6.39口で、手数料0.10ドルを含めて3.01ドル(約476円)を支払った。申立書によれば、手数料を除いた価格は1口約46セントだった。「メッツの勝利」の価格が1口約46セントだったのは、市場全体ではメッツが勝つ確率を5割弱とみていたことを意味する。
試合はメッツが勝ち、アカウントには6.39ドル(約1010円)が払い戻された。購入時の3.01ドルとの差額の3.38ドル(約534円)がもうけになる。メッツが負けていれば、3.01ドルはすべて失われていた。
州側はこの取引を、Polymarketがニューヨーク州内で、州の免許を持たずにスポーツの勝敗に賭けさせている証拠として裁判所に提出している。
州側は、将来の不確実な出来事に金銭を賭け、結果次第で払い戻しを受けるのだから、州の刑法が規定する「賭博」にあたると主張。Polymarketは免許を受けず、1日に5件を超え、計5000ドルを超える賭けを受け付けているため、ブックメーカーにもあたるとしている。18歳から20歳の利用を認めている点も、州のモバイル・スポーツ賭博が21歳以上としている年齢要件に反すると指摘している。
州は差し止めに加え、違法に得た利益の3倍にあたる制裁金と、無許可での賭けの提供1件ごとに10万ドル(約1580万円)の制裁金を求めている。
州がこうした訴えを起こすのは初めてではない。4月にはCoinbaseとGeminiの予測市場部門を、7月31日には最大手のKalshiを、ほぼ同じ構成の申立てで提訴している。
「カジノ」か「取引所」か
Polymarketは自らを「賭博の事業者」ではなく「デリバティブ取引所」だと主張している。
連邦地裁に提出した訴状によれば、Polymarketの米国法人は2025年7月9日、米商品先物取引委員会(CFTC)から先物取引所として指定を受けている。同社の主張によれば、出来事の結果に応じて支払いが決まるイベント契約は、商品取引所法の「スワップ」にあたる。同法は、公認の取引所で取引されるスワップについて、CFTCに「専属的な管轄権」を付与している。スポーツに関するイベント契約を禁止すべきかどうかを判断するのもCFTCであって、州には管轄権がないと主張している。
Polymarket側は、スポーツ賭博との違いも強調している。スポーツ賭博では、業者が自らオッズを決め、利用者の賭けの相手方になる。一方、Polymarketは利用者同士の注文をマッチングするだけで、どちらの予測が的中しても一定の手数料を受け取る。「どちらの客も金を失うことはあるが、シカゴ・マーカンタイル取引所はMGMグランド(カジノ)ではない」と主張している。
予測市場の有用性を示す例として、訴状は2025年のニューヨーク市長選の民主党予備選を挙げる。世論調査で当初は泡沫扱いされていたゾーラン・マムダニ氏の勝利を、予測市場は正確に予測したという。
連邦の規制当局は、予測市場の側に立っている。CFTCは4月24日、司法省とともにニューヨーク州を提訴し、州法の適用を差し止めるよう求めた。CFTCが7月に公表した資料によれば、CFTCが提訴した州はニューヨークを含めて9州にのぼる。
割れる司法判断
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