ASCII倶楽部

このページの本文へ

小島寛明の「規制とテクノロジー」 第406回

偶然出会った彼女はAI、電話に出た警察官はディープフェイク──急速に巧妙化するAI詐欺

2026年09月22日 07時00分更新

文● 小島寛明

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ChatGPTやClaude、Geminiといった主要AIを使えば、簡単なアプリなら数分でしっかり動作するものをつくってくれる。

 ちょっとした作業を効率化するのに非常に助かるのだが、問題は、悪用するハードルも大幅に下がっていることだ。この結果、詐欺の手口も、AIの進化によって急速に巧妙化が進んでいる。

 Claudeを開発・提供しているアンソロピック社が2026年9月、自社のClaudeが悪用された事例を集め、レポートとして公表している。

 たとえば、AIをフル活用した、詐欺マッチングアプリの事例だ。マッチングアプリは、容姿の画像や記載されたプロフィールから、魅力的だと思う人物を選び、チャットなどでコミュニケーションができる。しかし、チャットで会話をしている彼女/彼は実はAIだった。

 2026年4月にアンソロピック社が確認した事案では、ビデオ通話などを除き、AIが詐欺アプリのサービスの運営に必要な業務の多くを担当していた。

マッチングした相手はAIだった

 大手マッチングアプリTinderは、利用者の画像が次々に表示され、興味がある人については右にスワイプ(あり)し、ない人は左にスワイプする(なし)。ユーザー同士がいずれも右にスワイプするとマッチングが成立し、チャットなどでコミュニケーションを取ることができる。このTinderのUIは世界中でバズったのだが、詐欺アプリもTinderに似たUIを採用していたようだ。

 この詐欺アプリの運営元は、画像生成に強いAIを使って、プロフィール画像を生成する。この詐欺アプリでは、4700以上のAIペルソナが用意されたという。「あり」をスワイプしたユーザーは、AIペルソナとマッチングが成立する。ユーザーとAIペルソナの会話は、Claudeが担当していたようだ。詐欺グループはAIに対して、自動化されていることを絶対に明かさない、ビデオ通話や写真の要求はかわす、決められた会話の段階を順に進むよう指示していた。

 送信するメッセージの量や、マッチングの回数が増えると、アプリ内のコインを購入することになる。マッチングした相手ともっと話したいと思ってコインを買ったユーザーは、実はAIと会話していたということになる。

 この詐欺アプリの運営元には、人間の従業員もいて、AIが提示した3種類のメッセージから、1つを選択するのが主な仕事だったようだ。また、SNSでフォローを返すとか、ビデオ通話で話すといった自動化が困難な業務も担当していた。

 この詐欺アプリは、スワイプ画面に表示される候補の75%がAIのペルソナで、残る25%がリアルの人間だったという。

AIで声を女性に

 台湾の英文メディア、タイペイ・タイムズによれば、AIを使った音声変換をフル活用した事案で、詐欺グループ57人が2026年9月2日に起訴された。

 このグループは女性22人の声をAIに学習させ、既存のマッチングアプリでユーザーを待つ。ユーザーとチャットや音声通話でコミュニケーションを重ねるのだが、詐欺グループの会話の担当者の声を、AIで女性の声に変換していた。

 ユーザーとある程度親密になったところで、サプリやモバイルバッテリーといった安価な商品を買ってほしいとねだる。これに成功すると、高級ドライヤーやスマホ、生活費や医療費の金銭的な援助と段階的に要求を上げていく。この詐欺グループは2022年から稼働し、2万人を超える被害者から9億台湾ドル(約44億円)を騙し取った。押収品にはディープフェイクを生成するソフトを搭載するPC67台が含まれていた。

警察から電話がかかってきた

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事

ASCII倶楽部の新着記事

会員専用動画の紹介も!