2026年の今でもなぜか存在し続ける電卓機能付き腕時計
電卓機能付き腕時計は、決して新しいガジェットではない。むしろデジタル腕時計の歴史を振り返れば、電卓はアラームやストップウォッチと並ぶ古典的な付加機能の1つである。
1970年代にはすでに腕時計と電卓の合体が始まり、1980年代にはカシオなどが「腕で計算する」という未来を身近なモノにした。スマホを取り出せば何でも計算できる現代になっても、なぜか電卓腕時計は絶滅していない。
今回、筆者がいつものようにAliExpressでまったく別のアイテムを探している最中、偶然遭遇して衝動買いしたのが、カシオ・スタンダードへのオマージュ感満載のチープな「デジタル電卓腕時計」である。そして購入理由は電卓機能ではなかった。
腕時計と電卓の合体は半世紀以上前に始まっている。1975年末、Pulsarは世界初とされる市販の電卓腕時計「Calculator」を発売した。初期モデルは18金ケースで3950ドルという超高級品だった。6桁LED表示ながら12桁まで計算でき、あまりにも小さなキーを付属スタイラスで押して計算する仕組みだった。翌1976年にはステンレスモデルも登場している。
そして1977年、今度は電卓のご本家Hewlett-Packardが「HP-01」を投入する。HP自身が単なる時計ではなく「Wrist Instrument」と呼んだこの怪物は、時計、アラーム、タイマー/ストップウオッチ、カレンダー、電卓、メモリーを相互利用できる28キーの腕上コンピューターだった。22個のキーはブレスレットに収納したスタイラスで操作するという凝りようである。
下写真右のHP-01は筆者の愛用品だ。ときどき一緒に断捨離フリマを開催しているアスキー総研の遠藤さんとの打ち合わせで、ひょんなことから筆者が複数台コレクションしていたブローバ・アキュトロンと交換して手に入れた。半世紀近く前の電子ガジェットを今でも腕に巻けること自体が楽しい。
デジタル腕時計と電卓の相性はいい
ただ、今回衝動買いした理由は「電卓付き」だからではない
考えてみればデジタル腕時計と電卓は相性が良い。どちらも数字を表示するディスプレイと数字を入力するキー、そして四則演算なら+/-/×/÷/=があれば成立する。スマホのようなタッチパネルも高性能CPUも不要だ。普通の電卓なら20~30個近くあるキーも、機能を絞れば腕時計に十分押し込める。
ただしキーボードを載せると、表面積は普通のデジタル腕時計の2倍近くになる。そこでケースを腕に沿うよう湾曲させれば、見た目の巨大さはかなりミニマイズできる。横から眺めるとキートップまで微妙に段差が付けられており、なんちゃってスカルプチャーキーボードにも見えてくるから不思議だ。
今回のモデルには独立した数字キーと四則演算キーが並ぶ。さすがに指の腹でポンポン押せるサイズではないが、1970年代のPulsarやHP-01のような専用スタイラスは不要だ。爪先を使えば十分操作できる。この「無理矢理だけれどちゃんと使える」あたりが電卓腕時計の正しい楽しさだ。
しかし筆者が最も気に入ったのは、表面積の6割近くを占めるキーボードのカラーリングだ。透明感のある琥珀色を見た瞬間、思い浮かんだのは、関西圏の人にはおなじみの「黄金糖」だった。ブランデーやウイスキーにも似た色だが、筆者の脳内変換では100%黄金糖である。
黄金糖といえば、かつて東亜国内航空(TDA)、その後の日本エアシステム(JAS)系で親しまれた機内キャンディーでもある。現在もそのDNAはJALグループの日本エアコミューター(JAC)に残り、JACオリジナル包装の黄金糖が機内で提供されている。昭和の飛行機を知る世代には、味だけでなく旅の記憶まで呼び戻す色なのである。
機能は電卓以外にも、時刻、アラーム、ストップウォッチ、デュアルタイムなど必要十分。暗所ではライトも使える。液晶表示は青白く明るく浮かび上がり、時刻は鮮明に読み取れる。ただし筆者が期待した「黄金糖キーボードまで怪しく光る」という演出はない。そこまでやってくれれば完璧だったのだが。
そしてプラスチック主体のボディは実測わずか36g。巨大な電卓フェイスから想像するよりはるかに軽い。1977年のHP-01が約6オンス、つまり170g前後もあったことを考えれば、半世紀の進歩は計算能力よりも腕への優しさに現れたのかもしれない。
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