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Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第4回

【武蔵大学准教授・菊地映輝氏】「エヴァ批評少年から『産学連携の翻訳機』へ——武蔵大・菊地准教授が挑む、フェイクな関係を壊す『セレンディピティの設計』」

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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産学連携の「フェイク」を壊し、「Cultech(カルテック)」で文化を実装する

「先生」という記号を捨て、フラットな戦友になる

玉置: さて、事前の質問案では国交省のコンテスト受賞(日本未来デザインコンテスト優秀作品賞)の話を入れましたが、菊地さんからは「それはだいぶ前の話で、いま語るべきはもっと別のことだ」という顔をされました(笑)。

菊地: あはは。いや、アイデアを考えるのは今も得意ですし、学生と一緒にコンテストに応募したりもしているんですが、僕が今、本気で向き合っているのは「産・官・学」がどうすれば嘘偽りなく結びつけられるか、という点なんです。

玉置: 菊地さんは武蔵大学の准教授であり、GLOCOMの主任研究員であり、自身の会社(Lab.808)も経営している。まさにその結節点にいますよね。

菊地: ここまで何度も出てきている通り、僕は自分の母校で学んだ「問題発見・解決型」の学びの申し子なんですが、学術の世界に閉じこもっていては社会のバグは直せない。でも、大学にいると「産学連携」の嫌な側面がよく見えるんです。全員がそうっていう訳じゃないですが、一定数の企業は研究者のことを「小難しい理屈をこねるオタク君」だと思っている節があるように思います。何言ってるかよくわからないし、現場の感覚とも違うようなことを言ってるけど、とりあえず「先生、流石ですね」と持ち上げておけば、相手は機嫌よくなるだろうとタカをくくって研究者に接している。

玉置: 逆に、先生側もそれを真に受けてしまう?

菊地: そういう研究者は意外と多いと思います。企業側のお世辞を真に受けて「俺は偉いんだ」と勘違いをし、企業側に教えてやる姿勢で権威的に振る舞おうとする。この、お互いがお互いをどこかバカにし合っている「フェイクの関係」をこれまで何度も見てきました。それが僕にはどうしても耐えられない。だから、どっちの土俵にも立てて、どちらからもバカにされない、お互いを繋ぐ翻訳機のような「リアリスティックな路線」を目指したいんです。だから僕は大学の研究者以外にもいろんな活動に挑戦しているんだと思います。

台湾で見出した「CulTech」という武器

玉置: その「リアルな実装」の旗印として掲げているのが、台湾で出会った「CulTech」という言葉ですね。

菊地:僕は過去に数ヶ月間現地滞在したりと、台湾にかなり興味があります。台湾のことについて色々と調べる中で出会ったのが、その概念です。中国語で「文化科技」と言い、英訳として「CulTech」が使われているようです。文化科技が文化科学技術の略称なので、そのまんま文化(Culture)と科学技術(Technology)が合体した造語です。

玉置: 日本では、その二つはかなり遠い場所にありますよね。

菊地: まさにそこが問題なんです。日本では各省庁が何を所管するかの問題で、文化とテクノロジーとの位置がかなり遠いように思います。もちろん、一部では文化とテクノロジーをかけ合わせた試みも無くはないのですが、主に民間の取り組みに委ねてしまっていて、国家として何かをしかけていく発想が希薄に思います。

玉置: 縦割りの弊害で、新しい価値が生まれる余地が削られていると。

菊地: だから、新しい概念を「単語」を日本に持ち込む必要性があるなと。概念を導入すれば、みんながそれを語れるようになる。2022年に国際大学GLOCOMで大規模なイベントをプロデュースしました。コロナ禍ということもあり、僕自身はまだ「大きく成功した」とは言えない消化不良感があるんですが……。でも、今の文化はインターネットがあることが大前提ですよね。だとすれば、テクノロジーとカルチャーを切り離して考えること自体がナンセンスです。だから、CulTechという言葉が「そんなの当たり前じゃん」ってなるまでは、これからもこの言葉を使い続けたいです。

台湾では大規模なCultechのイベントも開催されている

2024年以降の「メディア社会」と「都市」の越境――「ポップアップ」が都市の熱を呼び覚ます

玉置: さて、最後の質問です。2024年に武蔵大学の准教授に着任され、いよいよ研究と実務を加速させています。ネット上の「バズ」や「熱量」を、どうすれば物理的な都市の活性化やビジネスに幸福に変換できるのか。菊地さんの現在の「答え」を聞きたい。

菊地: 難しい問いですが、実は僕がいま注目している「一つの答え」があります。それが「ポップアップ(期間限定の出店・イベント)」です。

玉置: ポップアップ? 最近、渋谷の空きスペースなんかでもよく見かけますが。

菊地: はい。例えばインフルエンサーやVTuberが活躍すると、本やグッズが出ますよね。ECとしてオンラインで手に入れるだけでは不十分で、ファンはイベントとして身体を使って推し活をしたいんです。だからポップアップにみんな訪れる。もしかすると、自分も含めたファンたちの熱狂を身体で感じたいのかもしれません。だから、ポップアップはネット上の熱量を都市に落とし込む一つの答えだと自信を持って言えます。

玉置: 都市の側から見れば、「余白」に期間限定でネットの文脈をにじませる。

菊地: まさに先程言った「余白」の話とも関係しますね。数年以内に登場すると思うのは、「ワンフロア全部がポップアップ」という商業施設の形態です。人気が上下するブランドに長期間床を貸すよりも、そっちの方がより多くの集客と賑わいを生み出すと思っています。

玉置: それは、弊社が運営している所沢サクラタウンの「ラーメンWalkerキッチン」に近いですよね。日本中の有名店が1週間交代で入れ替わる。かつては1週間で店を入れ替えるなんて無理だと思われていましたが、あのキッチンがシステムを証明してしまった。

菊地:今の文化はインターネットがあることが大前提という話は先程しましたが、それはインターネットだけで完結せずに、都市空間で人間が身体を通じて文化を味わうという体験を生み出しています。そして、その体験は期間限定であることも大事で、人間はその限定性にとても弱いのです。

ASCII編集部とのクロス議論――文理融合の「筆」をどう動かすか

玉置: 今のお話、非常にヒントになります。実はASCIIでも、これまで理系の先生方とのネットワークはあっても、文系の知見との融合が薄いという課題感があって。菊地さんが仰る「Cultech(文化×技術)」は、まさに私たちが挑んでいる文理融合の新規事業にマッチすると感じました。

 また、池袋で、駅のコンコースの大きな柱が「ちいかわ」にラッピングされ、ファンが写真を撮り、少し離れた場所のポップアップワゴンに流れていく……という導線を見て「うまいな」と思っていたんです。

菊地:いまインターネットというメディアは「フィルターバブル」が猛威をふるい、自分の興味がある情報以外は見えにくい状況にある。だからこそ、都市には「セレンディピティ(偶然の出会い)」のメディアとしての役割も求められます。 ポップアップに訪れるのは、多くは既にそのもののファンですが、ファン以外の人びとも「偶然現れた場」を通じて、不意にそれに出会う。そこで、その対象を好きになり、SNSをフォローし、またリアルへ足を運ぶ。このインターネットと都市という2つのメディアの往復運動の中で、人びとの好きは育っていくし、都市の側から見れば、それは余白を通じて文化が育つことにも繋がっていくと思います。

玉置: 菊地さんの言う「メタ観光」も、その「きっかけ作り」の一環。

菊地: はい。先程お話したように、僕はメタ観光においてもセレンディピティを重視したい。まだマップに載っていない何かとの偶然の出会いに価値を置きたいのです。メタ観光とポップアップを組み合わせる施策なんかも出来るかもしれませんね。近くにメタ観光スポットがあるからと行ってみた先で、見知らぬポップアップに出会ってそれにハマる。そんなことが当たり前になれば、都市はもっと面白くなる。ASCIIのような実行力のあるパートナーと一緒に、この「2026年の都市」を書き換えていきたいですね。

【編集後記:玉置の眼】

 菊地映輝という男は、一見すると涼やかなアカデミズムの住人だ。しかしその正体は、エヴァ批評で牙を研ぎ、家系ラーメンで死線を彷徨い、おじさんたちの街づくりに殴り込みをかけてきた、生粋の「生存者(サバイバー)」である。

 彼が語る「Cultech」や「ポップアップ」が机上の空論に聞こえないのは、それが日本の停滞した構造をハックし、文化を死守するための「実弾」だからだ。 「都市はメディアである」――。 2026年、ネットとリアルの境界が消えたこの街を、彼はこれからも多層的な物語で鮮やかに塗り替えていくだろう。その「編集」の現場に、我々ASCIIもまた、フラットな戦友として並走し続けたい。

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