「月収5万円」から1500人の組織へ アイレットの成長を見届けた先に進む道
AWS黎明期を駆け抜けた後藤和貴の卒業――東京リージョン開設前夜からAI時代へつなぐ、エンジニアの心得
2026年03月17日 11時00分更新
東京リージョン開設後の穴を埋めたJAWS-UG行脚
タイガーチームでの活動と同時に始まったのが、AWSのユーザーグループであるJAWS-UGでの登壇行脚だ。東日本大震災の直後に空いてしまった時間と労力を、ユーザーコミュニティに充てたわけである。
もともと後藤さんがAWSのコミュニティに参加したのは、まだJAWS-UGができる前だったという。「2009年の秋頃にmixiの『EC2友の会』みたいな勉強会があり、Amazon Data Services Japan(現:AWSジャパン)の一人目の社員になった小島英揮さんが挨拶していたのを覚えています」(後藤さん)とのこと。
その後、JAWS-UGが正式に立ち上がり、東京リージョン開設以降は勉強会も活発に行なわれていた。当時エバンジェリストだった後藤さんは、2011年は50回以上登壇していたという。「特に地方ではAWSは知ってるけど、触ったことあるという人が少ない。だから、使ってみたという体験談はもちろん、『CDNとは?』みたいな、サービスの説明もよくやっていました」と振り返る。
当時のcloudpackのAWS事例は登壇トピックとして重宝がられたという。「使ってみたという話は他の人もできたと思うのですが、僕は実際に構築した事例やお客様からの声を紹介できたのが大きかった。当初から事例にもこだわっていたので、お客様の使用感やフィードバックを盛り込むことができた」と語る。
そして、後藤さんといっしょにJAWS-UGで登壇行脚していたのが、現在ソラコムのCEOで、当時はAWSのクラウドエバンジェリストだった玉川さんだ。
2011年9月は九州のJAWS-UG支部を立ち上げまくるツアーで、車で勉強会を移動するバンドワゴン状態だったという。「鹿児島での勉強会が終わって、鹿児島空港に向かっているときに、ついつい桜島の温泉に寄ってしまい、飛行機に間に合うために猛ダッシュしたのを覚えています(笑)」と玉川さんは振り返る。
後藤さんも、「僕と玉川さん、齋藤将平など、東京から5人くらい行っているんですよ。確か、熊本のハンズオンは参加者も5人だったので、登壇者と参加者がマンツーマンでした(笑)」と応じる。地方の勉強会は参加者こそ少なかったが、熱量は高く、楽しく前向きに参加できたという。
熱狂するアーリーアダプター同士がつながるコミュニティ
東京リージョンの開設を経て、クラウドは一気に普及するかに見えたが、実際にはそこからも長い時間がかかった。「正直、クラウドが選択肢に入るお客さまはほとんどいなかった。ゲームでのスケールアウトやグローバル展開のような特殊な事例で使う程度で、AWSがすべての業界のお客様の選択肢に入るようになったのは、本当に最近です」と後藤さんは振り返る。
ITスタートアップやゲーム会社の利用は増えていたが、一般企業の腰はなかなか重かったという。実際、データセンターのような建屋、サーバーなどのIT機器を前提にした要件でしか発注できなかった企業は多かったという。「とある会社の役員からは、傘下の情シス子会社を教育し直してくれとお願いされました。新しいサービスやインフラ、テクノロジーを使うという発想がなく、単なる発注担当になっている状況に危機感を抱いたようです」と後藤さんは振り返る。
こうした状況を変えるべく、後藤さんはクラウドエバンジェリストの役割をいったん終え、cloudpackをAWSのプロフェッショナルエンジニアチームに育て上げることに専念する。「ビジネスを作るのが得意な人も、技術者としてプロフェッショナルな人も、きちんと評価される組織を作りたかった」と後藤さんは振り返る(関連記事:クラウド業界の梁山泊「cloudpack」の強さを後藤氏に聞いた)。
AWS Samuraiの称号を2度も獲得している後藤さんだが、エバンジェリストとして高い頻度で登壇した時期は実は2年間だけだった。しかし、この2年間でその後のビジネスにつながる人脈が培われた。「AWS御三家」と言われるクラウドインテグレーターであるクラスメソッド代表取締役の横田聡さんやサーバーワークス代表取締役社長の大石良さんもクラウドに未来を見いだし、熱狂した最初のアーリーアダプターだ。
後藤さんは「もともとの事業からピボットして、クラウド事業に転換しようという会社だったので、見ている市場も、悩みも同じでした。もちろん、コンペにもなりうるのですが、クラウドが活きるシステムやプロジェクトはポテンシャルにあふれていたので、市場を拡げていくという意味ではいっしょに面白いことをやる仲間でした」と振り返る。
クラスメソッドの横田さんは、もともとはAdobe Flexのコミュニティを介して、デザイン会社時代の後藤さんとつながりがあった。クラスメソッドも2008年からAWSを自社で使っていたが、当時ビジネスとして展開したいと考えていたのは社長の横田さんだけだったという。「AWSはあくまでユーザーであり、あくまでアプリケーション開発のデプロイ先でした。みんながクラウドインテグレーションというビジネスがそもそも成立すると思ってなかったです」と横田さんは振り返る。
そんな横田さんから見て、クラウドに邁進しているアイレットはあこがれだった。「後藤さんがひたすらうらやましかったです。スキルの高いエンジニアが野武士集団みたいなチームを構成していて、迷うことなくクラウドに突き進んでいました。どんな案件も断らず、炎上上等でオレたちなら絶対できるみたいな集団だったんです」と横田さんは当時を振り返る。しかし、そんなクラスメソッドも2012年にクラウド事業に本格参入し、クラウドインテグレーションと新しい市場を切り拓いていく。
クラスメソッド、アイレットとともにクラウドインテグレーション事業を推進してきたサーバーワークスの大石良さん。取材は参加できなかったが、コメントをいただいた。「私から見た後藤さんを一言で表すなら『戦友』です。ビジネスの現場ではもちろんコンペになることもありましたが、それ以上に『一緒にクラウドという新しい市場を切り拓いた仲間』という感覚の方が圧倒的に強かった。後藤さんとは全国のJAWS-UGに一緒に出かけましたし、後藤さん、ソラコムの玉川さんと一緒にバンを借りてJAWS-UG九州巡りをやって、最後に桜島の温泉で締めたツアーの思い出は今でも語り草です」と語る。













