AIエージェントに選択肢 「AWS re:Invent 2025」レポート 第13回
AWSのカルチャー「NOW GO BUILD」を高らかに掲げ、巨人が舞台を去る
ありがとうヴァーナー 「自らの仕事に誇りを持て」は働くすべての人に向けたエール
2026年01月16日 11時30分更新
深さに加えて、広さを持つことがすぐれた開発者の条件
ルネッサンスデベロッパーで5つ目の資質は「POLYMATHであること」だ。POLYMATHは「多く、複数の」を意味するPOLYと、「数学」を意味するMATHからできているが、MATHは学ぶという意味のギリシャ語(Manthanein)を由来にするため、博学や博識が正しい訳語となる。ここでは深いドメイン経験に加え、さまざまな分野での知識が必要になる。
この博学者の代表が、まさにルネッサンスで活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチになる。「彼は画家であり、エンジニアであり、経済学者であり、発明者でもあった。私はみなさんがダ・ヴィンチになることを期待しているわけではありません。でも、深い専門知識を超えて、知識を拡げる必要があります」とボーガス氏は語る。
ボーガス氏が定義する「I型」の開発者は、1つの分野に非常に精通し、専門知識を持っている。たとえば、若きボーガス氏の指導者でもあり、友人でもあったジム・グレイ氏は、トランザクションという概念を発明し、チューリング賞を受賞するコンピューターサイエンティストだ。しかし、彼は「データに問いかけたい質問を20問くれれば、私はあなたのシステムをデザインしよう」と問いかけていたという。
そんな彼が最初にチャレンジしたのは、巨大な天文学データを持つストーンデジタルスカイサーベイのスカイサーバーだ。そしてジムの深い知識は、天文学データの計算に革命をもたらした。グループのフィラデルフィアのボルチモアに出向いたとき、30秒でサーバールームから出てきたジムは、ディスクのアクセス音だけで、データベースのレイアウトが間違っていると指摘したという。
「彼はディスクのカタカタ音を聞くだけで、ランダムアクセスが多すぎることがわかりました。数十年に渡る経験から培われたこの直感は、システムをどう動かせばよいかについて第六感を与えていました」とボーガス氏は振り返る。ジムがデータベースを再設計したことで、データベースのパフォーマンスは劇的に向上したという。
そんなグレイ氏は、データベースに深い造詣を持ったというI型の開発者ではなく、幅広い理解を持った開発者だったという。「彼の好奇心はデータベースの領域をはるかに越えたものでした。彼は人々を理解し、ビジネスを理解し、幅広い分野のエンジニアを理解していました」とボーガス氏は語る。つまり、ジムは「T型」の開発者。深さを表すのがIであれば、広さを組み合わせるとTになるからだ。
「仕事で成功するためのスキルは、個人的なスキル、機能の深さ、業界知識のユニークな組み合わせになる」とボーガス氏は語る。その点、データベースのパフォーマンスやコストに精通していれば、自分の作業がシステム全体にどのような影響を与えるか理解しているので、よりよいアーキテクチャを選択できる。加えて、業界への幅広い知識があれば、トレードオフを理解して、構築するシステムを改善するための視野が得られる。
T字型開発者は、深く掘り下げるだけではなく、より大きなシステムにどのように適合するかも理解できる。「これは私のアドバイスです。深さと広さを両方構築してください。自分の専門分野の深みを養うだけではなく、複数の分野やアイデアに結びつく範囲を養いましょう」とボーガス氏は聴衆に語る。
ルネッサンスデベロッパーの5つ目の資質は「博学者になること」だ。ボーガス氏の言うとおり、すべての人がダ・ヴィンチになるなる必要はない。「優れた開発者はT型。それぞれの分野の専門家であり、自分たちの仕事がより大きなシステムに適合していることを理解しています。あなたの『T』を拡げましょう」(ボーガス氏)
あなたの仕事は誰も見ていない だけど……
ルネッサンスデベロッパーの5つの資質を紹介してきたボーガス氏。「好奇心を持って、学び続け」「システム的に考えて」「正確にコミュニケートし」「オーナーになり」、最後は「博学者になり、知識を拡げる」こと。「来週はこれらをすべて実践し始めるのに、十分な時間がある」とボーガス氏は聴衆を鼓舞しつつ、講演のあとのre:Playパーティを告知する。
最後、ボーガス氏がビルダーにアピールしたのは、「あなたのベストな仕事は隠されている(Your best work is hidden)」というある意味冷徹な事実だ。AmazonのサイトでBuyボタンを押せば、確かに商品は届く。しかし、家に配達されるまでの一連のフローで、商品のカタログやサプライチェーンを管理する作業を顧客は見ることはない。「そのすべての作業、誰も見ていないですよね」とボーガス氏は聴衆に語りかける。だけどね。
「顧客は『データベースエンジニアが素晴らしい仕事をしていて、その成果に満足している』なんて決して言わないでしょう。そこに費やされた労力を理解しているのは、あなただけです。夜も稼働し続けるシステム、クリーンなデプロイメント、誰にも気づかれないロールバック。でも、私たちはみんな自分の仕事に誇りを持つことが重要だと信じています」
「私たちが作ったもののほとんどは誰にも見られることはないでしょう。私たちがこの仕事をうまくやっている唯一の理由は、卓越したオペレーションを実現するための、私たち自身のプロフェッショナルとしての誇りです。でも、それこそが最高のビルダーを定義するものです」
「誰も見ていないときでも、ビルダーは物事をきちんと行なう。みなさんも毎日やっています。仕事を見ると、その献身が至る所に感じられます。だから、私は心からみなさんを誇りに思っています。みなさんのすべての仕事に感謝します」(ボーガス氏)
これはエンジニアのみならず、働くすべての人に向けたヴァーナーのエール。だからこそ、多くの人の胸を打つ。聴衆に対する感謝の言葉で終わったボーガス氏の講演に、会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こる。「KEEP CALM and NOW GO BUILD」の前で聴衆に応えたボーガス氏は、「Werner out!」ともに基調講演の舞台を降りた。
まさに燃え尽きる(Burn out)まで言葉を振り絞りつ尽くした講演は聴衆の魂を震わせ、会場から惜しみない声援と拍手が送られる。Nirvanaの「Smells Like Teens Spirit」が大音量で鳴り響く中、多くの聴衆がヴァーナーとの分かれを惜しみ、会場を後にしていた。

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