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プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点 第2回

全成分を資源循環させるリサイクル技術、持続可能な社会の実現に関わるプラットフォームへのヒントは?

2026年03月03日 17時00分更新

文● ASCII

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社会で実際に使われることを意識することと、異分野との接点で生まれる新たな地平線

 「産総研なので、技術を社会で使ってもらうことはすごく意識しています」という山口氏自身が取り組んでいる研究はまだ社会で使われていると言える段階には至っていないという。企業との共同研究を通じて、社会実装に向けた手応えを感じる場面は増えてきているが、研究者は技術を生み出す立場だが、その技術を実際に使うのは企業であり、最終的に社会で使われるかどうかは、企業が本気で取り組むかどうかにかかっている。

 産総研で行われている企業との共同研究はリサイクルを専門とする企業に限らず、プラスチックやフィルムなどのものづくりを行っている製造系の企業が中心だという。近年では、バイオマスの活用やプラスチックリサイクルに本気で取り組もうとする企業が増えており、その姿勢の変化を強く感じていると山口氏は語る。多層プラスチックフィルムをはじめとしたテーマでは、印刷会社や化学メーカーなど、実際の製造現場を持つ企業が共同研究に参加している。社会への実装は、企業が本当にやると決断できるだけの技術水準に到達できるかどうかがポイントだ。

「企業と共同研究をすると、自分の技術をどのように見てくれているかが分かります。企業の人が『こうやって使いたい』と思っていることも伝わってきます」(山口氏)

 そのために必要なのは研究成果の新規性だけではなく、安全なプロセスであること、コストが現実的であることなど、企業が実際に導入を検討する際に重視する要素を満たしているかどうかが問われるという。こうした点については、共同研究の中で企業と議論を重ね、一歩ずつ使われる技術に近づいていく。そのプロセス自体が研究の重要な一部となっていると山口氏は語る。

産総研ビジョン

 イノベーションは、必ずしも同じ分野の延長線上から生まれるとは限らないという山口氏は、異なる分野との接点にも可能性を感じている。化学系の企業と話す機会は多いが、それ以外の分野とも対話することで、思いがけない発想が生まれるかもしれないと考えているという。過去には「触媒とお笑いを結びつける」といった、分野を越えた発想を持つ研究者もおり、そうした自由な発想が新しい視点をもたらすこともある。音楽など、化学とは直接関係がないように見える分野との接点にも関心を示していた。

 また、研究部門全体の動きとして、AIや機械学習の活用も進んでいる。触媒分野でも、AIを用いて優れた触媒を見つけ出そうとする取り組みが広がっており、イノベーションの形は確実に変わりつつある。分野を固定せず、既存の枠組みにとらわれないこと。未知に対して好奇心を持ち続けること。山口氏は、その姿勢が新たなイノベーションにつながっていくと考えている。

「まったく違う分野でも、何がきっかけになるか分からないので、音楽など、触媒から離れたジャンルと話してみるのは面白いかなと思っています」(山口氏)

研究者集団のマネジメントと次世代へ託す思い

 産総研で東北センター所長/化学プロセス研究部門長として組織を率いている山口氏に、研究者、そしてその集団となる組織についての考え方を尋ねてみた。研究者にはいろいろなタイプがおり、能力も性格もキャラクターも異なる。コツコツと一人で積み上げるタイプもいれば、周囲と議論しながら進めることを好むタイプもいる。そうした多様な人材をどう組み合わせ、どう配置するかが、組織運営で重要だという。

 ただ、産総研では研究テーマを軸に人を配置せざるを得ないケースもあり、必ずしも理想通りにいくとは限らない。研究テーマを設定すると、関わるメンバーがある程度自動的に決まることも多い。人を自由に選べるわけではなく、性格や考え方の違いから行き違いが生じることもある。そうした中で、チームをどうまとめるかについて、山口氏は組織構造を重視している。

 産総研では、部門長の下に複数のグループ長がいて、それぞれのグループに5~6人の研究者が所属する体制を取っている。日々のマネジメントは基本的にグループ長に任せ、部門長としては「グループ長を誰に任せるか」を最も重要な判断と位置づけ、その上でメンバーを配置していく。グループ長には、研究者の伸びしろを潰さず、研究の方向性をきちんと示しながら、前向きに研究を進めさせられる人を配置することが重要だと語った。

 個々の研究者については全員が研究者として成果を出し続けることが重要で、特定の誰かだけを伸ばすのではなく、全員を伸ばそうとする姿勢で向き合っているという。また、伸びる可能性のある研究者に対しては、過度に干渉しないことも重要だという山口氏。上に立つ立場として、つい口出ししたくなる場面はあるが、あまり細かく指示を出しすぎると、かえって研究者の芽を摘んでしまう可能性がある。そのバランスは難しいが、個々の能力の評価よりも、多様な研究者がそれぞれの力を発揮できる環境をどう整えるかが山口氏のマネジメントにおける考え方の基本となっている。

「本当に伸びる研究者に対しては、あまりうるさいことを言わないで、潰さないようにする、というのも大事だと思っています」(山口氏)

 また、山口氏は若い研究者や、これから研究者を目指す学生に向けて、「研究に対する熱意」の重要性を強調する。自分が本当に興味を持ち、熱意をもって研究に取り組むこと。そしてそれを一時的なものではなく、長く続けていくことが何よりも大切だと語る。

 さらに学生からよく聞かれる「自分のやりたいテーマが見つからない」という悩みに対し、視野を広く持つことを勧めた。必ずしも最初から自分の強い興味や関心と結びついていなくても、新聞などを通じて社会が抱えている課題に目を向けることが出発点になる。特定の分野に閉じこもるのではなく、さまざまな分野に目を向けることが、研究テーマと出会うきっかけになるとアドバイスする。

 山口氏は最後に、次の世代の研究者に目を向けてほしいテーマとして「地球環境」を掲げた。CO2濃度や地球の平均気温といったデータを見ていくと、人類はすでに危機的な状況にあるのではないかと感じていると強い危機感を示す山口氏。平均気温が1度、2度と上昇し続ける中で、人間そのものは高温に耐えられるかもしれないが、農作物や魚といった食料資源、植物などの変化はすでに顕在化しつつある。

 そうした背景から、CO2濃度をこれ以上増やさないための研究分野は、今後ますます重要になると山口氏は語る。自身の研究テーマである資源循環もその一つだが、CO2の分離・回収技術など、今後さまざまなアプローチが必要で、そうした技術として実際に使えるものを開発していくことが欠かせないといい、次世代に託したい研究として訴えかけた。

 持続可能性は社会課題の解決にとって重要な要素だ。資源循環に対する研究は、現場領域で解決に取り組む課題のひとつとして、プラットフォーム構築のヒントになり得るだろう。

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