視覚に障害を持つ当事者が作った問題解決アプリ「ミテルンデス」
もう一人、取材に応じてくれたのは、同じキャンパスに通う大学1年生、鈴木我信さん。自身が弱視の当事者でありながら、Swiftでアプリを開発しています。
鈴木さんの話を聞くと、Appleのデバイスが「ユーザー」と「開発者」の境界を少しずつ溶かしていることが見えてきます。
鈴木さんは、小学生の頃からiPadを使い、一般校に通いながら、黒板の文字をカメラで拡大し、画面のズーム機能を使って授業に参加してきました。目まで見るものを近づけなければ見えないため、大学では、Macの画面をSidecar機能でiPadに映し、顔の近くで見ることで姿勢の負担を減らしています。
壁にある大きめの時計を読み取れないという鈴木さん。Apple Watchの大きな文字盤や、Taptic Time(振動で時間を知らせる機能)も、重要なツールになっていました。
一方で、iPhoneのカメラを活かした「アクセシビリティ機能を使うこと」が周囲との摩擦を生む場面もあります。
例えばコンビニの商品ラベルを読むためにiPhoneのカメラを拡大鏡として使っていると、店内アナウンスで「撮影・録画はご遠慮ください」と流れ、周囲の視線が気になると言います。
また街の看板をiPhoneカメラで拡大しているときにも、周囲からは写真を撮られているのではないか?と思われ、注意されることもしばしばあるそうです。
そうした経験から、鈴木さんは「ミテルンデス」という拡大鏡専用アプリを開発しました。
画面の縁を目立つ色で囲み、「これは撮影ではなく、見えづらさを補うためのツールです」と一目でわかるUIを作り出しました。
声をかけられた際に、店員や周囲の人に、弱視で読み取っていることを伝えたり、説明することが容易になり、iPhoneのアクセシビリティ機能をより使いやすくする役割を果たしてくれています。
ここには、Appleのアクセシビリティ機能だけでは解決しきれない「社会的な文脈」の問題があります。
どれだけ機能として優れていても、周囲から誤解され、使いにくい雰囲気が生まれてしまえば、実質的なアクセシビリティは確保されません。
そのギャップを埋めるために、当事者自身がアプリとコミュニケーションのデザインを組み合わせて試行錯誤しているのが、SFCでの取り組みだと言えます。

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