ニーズから生まれる機能開発
近年のニーズや新機能についてたずねると、ハーリンガー氏は「Appleファミリー」という言葉を使いながら、新機能開発の出発点を説明します。
「新機能を開発する際、私たちは常に『どうすればAppleファミリー(ユーザー)を広げられるか』を考えています。デバイスの使用に困難を感じているコミュニティがあれば、解決策を探ります。数年前の例では、発話が困難な方や失語のリスクがある方を支援する機能に取り組みました」
今年の例として挙げられたのが、Mac向けの「拡大鏡(Magnifier)」です。
「拡大鏡自体は長年iOSに搭載されてきましたが、今年はMacのための新しい拡大鏡機能を提供しました。きっかけは、目の不自由な従業員たちの声です。彼らは大学時代、講義室でホワイトボードやスクリーンを見るのに苦労し、いつも最前列を確保しなければならなかったと話してくれました。そこで、iPhoneの連携カメラを使って、遠くのものを手元のMacで拡大して見られるようにするアイデアが生まれました」
ここでは「社内の当事者の声」が起点になっています。
ただし、誰の声がどの程度プロダクトに反映されているのか、あるいは声を上げられない人たちの課題をどう拾うのか、といった点は、Appleに限らず多くの企業が直面しているテーマでもあります。
専用機器から汎用デバイスへ:メリットと課題
アクセシビリティの現場では、依然として高価な専用機器も多く使われています。一方で筆者の周囲では、「専用機器から、一般的なスマートフォンやPCへ」という移行も進んでいます。
筆者が担当する大学の授業には車椅子ユーザーの学生がいますが、彼女はこう話します。「アクセシビリティ機能が充実しているので、高価な専用機器を買わなくても、iPhoneやiPad、MacBook Airだけで済むことが多い」と。
この変化についてハーリンガー氏は、社内文化の問題として説明します。
「アクセシビリティは私たちの文化の一部だからです。私のチームだけでなく、Apple全体で多くの人がアクセシビリティを自分の仕事の一部として考えています。会議の片隅で誰かが『この機能のアクセシビリティへの影響は考えましたか?』と発言してくれるような、絶え間ないフィードバックのループがあります。」
結果として、少なくともユーザー側には「専用機器を買わなくてよくなった」「手元のデバイスだけで完結できる場面が増えた」として、デバイスの点でもアクセシビリティが高まっている実感を作り出していました。
講義室で役立つ機能群も、その一例です。
「例えば、講義室で教授のそばにiPhoneを置き、離れた場所からApple Watchで音声を聞いたり操作したりできる機能があります。また、この秋から日本語にも対応した『ライブキャプション』も提供しています。」
こうした機能は、聴覚や視覚に障害のある人を主な対象として設計されていますが、騒がしい環境で話を聞きたいときや、録画した講義の内容を後から文字で追いたいときなど、より広い場面でも使われています。
アクセシビリティ機能と“便利機能”の境界は、今後さらに曖昧になっていくかもしれません。

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