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5つのキー領域+フィジカルAI・宇宙・防衛技術に見る、企業向けテクノロジーの未来

富士通は「AI向けCPU」「量子コンピューター」でグローバルリーダー目指す 最新研究を一挙披露

2025年12月04日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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AI:モデルの軽量化技術から因果関係を推定するAIまで

 ここまで紹介した戦略に基づく個々の研究成果については、執行役員常務 富士通研究所長である岡本青史氏から披露された。岡本氏は、上述した5つのキーテクノロジーに加えて、中長期のテクノロジートレンドを踏まえて開拓している「Physical AI」「宇宙」「防衛・次世代通信」のアップデートについても触れた。

富士通 執行役員常務 富士通研究所長 岡本青史氏

 まずは、テクノロジー全体の軸となるAIからだ。

 LLMのTakaneにおいては、2025年9月、2つの技術からなる「生成AI再構成技術」を発表している。ひとつは、消費電力・GPUコストを98%削減する「1ビット量子化」技術だ。独自の量子化誤差伝播法で精度を89%維持しつつ、推論速度を3倍に高速化。これは他のAIモデルにも汎用的に適用できる技術であり、2025年12月2日に、OSSとして公開している。

 もうひとつは、「特化型AIの蒸留」技術だ。蒸留前と比べて推論速度を11倍高速化しつつ、メモリ使用量を70%削減。元モデルよりも精度を43%改善する、いわゆる「教師越え」も達成している。

生成AI再構成技術

 AI基盤のKozuchiでは、NVIDIAの「NeMo」や「NIM」といったソフトウェアスタックを搭載することで、信頼性を向上し、自動化を加速させている。加えて、前述のFUJITSU-MONAKAやNVIDIA GPU、NVLink Fusionとの連携により、グローバル標準のセキュアなAI基盤へと進化させていく計画だ。

 また、KozuchiのAI技術により、富士通の提供するITサービスも強化されているという。例えば、LLMの脆弱性やRAGの情報漏えいに対処する技術は、「Fujitsu クラウドサービスGenerative AI Platform」にて商用搭載されている。

 Kozuchiの「因果AI」は、相関関係ではなく、原因と結果の因果関係を探索・推論するAIであり、スケーラビリティと因果効果の推定に強みを持つ。ヘルスケアやマーケティング、商品開発などに適用が進んでおり、Fujitsu Uvanceのデータドリブンを支えるコア技術としても2026年度に製品化予定だ。

因果AI

 AIエージェント関連では、異なる企業間でマルチAIエージェントを動かすためのフレームワークを開発している。このフレームワークは、不完全応情報下でエージェントの最適解を計算する技術や、機密情報を共有しないゲートウェイ技術で実現している。現在、ロート製薬のサプライチェーンで実証を進めており、Fujitsu UvanceのDynamic Supply Chain事業を通じて2026年度に提供開始する。

マルチAIエージェントフレームワーク

セキュリティ:偽・誤情報対策をグローバルで推進する国際コンソーシアムを設立

 セキュリティの領域では、デジタルフェイク対策の技術が紹介された。虚偽の内容や偽画像を分析する技術、さらには偽情報に特化したLLMを開発し、「ディープフェイク検知」「SNSファクトチェック」「文章整合性・エビデンスチェック」といったアプリを構築している。

 こうした技術やアプリは、政府主導で偽・誤情報対策の研究を進める「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」でも展開する。

デジタルフェイク対策

ディープフェイクの検知技術

 また今回、K Programの取り組みをグローバルに広げる国際コンソーシアム「Frontria」を設立することを発表した。様々な先端技術(IP)をグローバルで組み合わせ、新たな市場を創出することを目指しており、現時点で57の組織・有識者が参画している。

国際コソーシアム「Frontria」の参画組織

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