「Base」「Instruct」そして「K2 Thinking」
「Kimi K2」には用途別に複数のバリエーションが用意されている。研究や微調整(fine-tuning)を前提にした基盤モデルがKimi-K2-Base、一般利用に向けて追加学習(post-training)を施したモデルがKimi-K2-Instructだ。
Baseはあくまで素体に近く、独自データで再学習したい研究者や開発チーム向け。一方のInstructは、会話・要約・ツール操作などがすぐに使える「即応型(non-thinking)」モデルで、ウェブ版Kimiでも採用されている。指示への反応が速く、思考プロセスを長く展開せずに結果を出す点が特徴だ。
2025年11月には、推論力を大きく強化したK2 Thinkingが登場した。これは、複雑な問題を段階的に考えながら解く思考型モデルで、検索・分析・文章生成といった複数のステップを自動でつなげられるのが特徴だ。従来のK2が「素早く答える」タイプだとすれば、K2 Thinkingは「考えながら答えを導く」上位版にあたる。さらに256Kトークンまでの長文処理にも対応し、大量のテキストを扱う用途にも強い。
現時点では、KimiのチャットUIで選択できるのは主にK2 Instruct。Thinkingモデルは段階的に展開中とされており、順次ウェブ版やAPIで利用可能になる見込みだ。
「1兆パラメータ級でも軽快」──効率化の仕組み
Kimi K2は総パラメータ数こそ約1兆に達するが、そのすべてを同時に動かしているわけではない。内部構造はMixture-of-Experts(MoE)方式で、実際に推論時に起動するのは約320億パラメータに限定されている。タスク内容に応じて必要な“専門家”ブロックだけを有効化することで、計算コストを抑えながら高い精度を実現している。
この構造により、K2は巨大モデルでありながら応答が速く、クラウドや自前サーバーでも動かしやすい。高性能と軽量化の両立という点では、OpenAIのGPT-4やAnthropicのClaudeと方向性は似ている。ただしKimi K2は、設計思想や学習手法を積極的に公開し、誰でも再現・運用できるようにしている点が大きく異なる。つまり「効率化」と「公開性」の両方を追求したモデルといえる。
学習面では、新しい最適化手法MuonClipを採用している。これは、従来よく使われるAdamWという学習アルゴリズム(重みの更新を制御する仕組み)で起こりがちな不安定性を防ぐものだ。具体的には、学習中に計算値が暴走して精度が乱れる「発散(logit explosion)」を抑え、大規模学習を安定させる役割を持つ。Moonshotによれば、15.5兆トークンという膨大なデータでの事前学習をスパイク(学習の乱れ)なしで完了したとされ、この安定性がKimi K2の高い効率を支えている。
総じて、Kimi K2は巨大でありながら軽快という矛盾を、MoE構造とMuonClip最適化の組み合わせで解消している。これが、同モデルが一般公開可能な性能・速度を維持している背景だ。
さらに報道によれば、Kimi K2 Thinkingの開発コストは約460万ドル(約7.1億円)と推計されており、数千万ドル規模の他社モデルと比べても桁違いに低い。Moonshot AIは、最先端GPUを大量に使わず、限られた計算資源でモデルを訓練したと説明している。こうした効率化が単なる理論ではなく、実際の開発費削減にも直結している点は、Kimi K2を現実的なオープンAIにしている理由のひとつだ。
行動するAIを支える設計
Kimi K2の最大の特徴は、単に質問に答えるだけでなく「自ら行動する」能力を持つ点にある。Moonshotはこの性質をAgentic Intelligence(エージェント的知能)と呼び、ツールの使い方を学習させるために独自の大規模データ生成パイプラインを構築した。
このパイプラインでは、多様なツール(外部アプリや内部機能など)を組み合わせ、現実に近い環境でAIが自律的にタスクを解くシナリオを自動生成する。例えば、検索→要約→可視化といった一連の処理を、あらかじめ設定されたルーブリック(評価基準)に基づいて反復学習させることで、「どのツールをどの順番で使えば目的を達成できるか」をモデル自身が学ぶ仕組みだ。
また、K2では一般化強化学習(General Reinforcement Learning)を採用し、明確な正解がないタスクでも自己評価を行うことができる。数値で採点できる課題(数理・コード)と、主観的な課題(要約・文章生成)を同時に扱うため、モデルは「自ら批評しながら改善する」学習ループを形成する。この点が、単なる出力モデルにとどまらないKimi K2の行動力の根幹になっている。
こうした仕組みにより、K2はユーザーが与えたツールや環境を自動的に理解し、適切な行動を選択する。複雑なワークフローを手動で記述する必要がなく、分析やコーディング、文書生成といったタスクを一貫して実行できるのが特徴だ。

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