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東京海上日動システムズ・JPX総研・三菱UFJ銀行が語る現在地

AWSで高度化する金融機関の生成AI活用 AI駆動開発からマルチエージェントまで

2025年11月04日 11時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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三菱UFJ銀行:マルチエージェントによる営業のワークフロー変革

 最後に登壇したのは、三菱UFJ銀行だ。今回紹介されたのが、市場部門の営業活動におけるマルチエージェント活用である。

 市場部門は、機関投資家や事業法人が本業に専念できるよう、為替や金利リスクヘッジを目的とした金融商品を提供している。同行の市場企画部 市場エンジニアリング室 Head of Quant Innovationの堀金哲雄氏は、「そのためには、顧客の財務や経営戦略、取引情報、市場環境の変化を把握するのはもちろん、規制や税制、社内プロセスを準拠しながら、安心・安全にニーズに応える必要がある」と語る。

三菱UFJ銀行 市場企画部市場エンジニアリング室 Head of Quant Innovation 堀金哲雄氏

 一方、これらの情報は、さまざまな公開データやシステムから人手で収集する必要があり、加えて分析・提案が担当者に依存するという問題を抱えていた。こうした課題を解決するために、2024年に業務に対応する個別のAIエージェントを開発。 「PL分析」「BS分析」「競合分析」「市場リスク分析」などの領域で、暗黙知の言語化や非構造データの抽出などにより、エージェントを構築した。

 これらのエージェントは、国内の市場部門を中心とした400名超の行員が活用しており、財務分析・課題提案のドラフトを最短で2~3分で生成できるようになったという。また、顧客理解が深まったことで、提案対象が10倍に広がり、案件化も30%増えるなど、目に見える成果も生まれている。

各業務に特化したAIエージェントの構築

 今後、国内の全営業および海外事業部への展開も予定しており、あらゆる顧客ニーズに応えられるようエージェントの種類や参照データの拡充を図っていく。一方で、エージェント活用を拡大するにつれ、幅広いコンテキストやデータに対応したり、無数のエージェントを制御する仕組みが必要になる。

 そこで現在、ユーザーコンテキストに応じてエージェントが連携する「マルチエージェントシステム」の開発と、社内外のデータをエージェントが活用できるようにする「MCP(Model Context Protocol)」への対応を進めている。「エージェントが増えてくると、人間の意図に沿った成果が得られづらくなってくる」(堀金氏)といい、エージェント全体の挙動を評価するAIを導入しながら、継続的な改善に取り組んでいる。

マルチエージェントの実装とMCPへの対応

PL・BS・競合分析など各エージェントが働き、提案書を生成

 堀金氏は、「いくつものワークフローをエージェントに分解して、さらにマルチエージェントシステムに仕立てることで、AIが自律的にワークフローをつくる世界が来ようとしている」と説明。「ただ、いきなりすべてをエージェントに置き換えることは難しいため、業務の評価や分解、再構成を通じて仮説検証を地道に回すこと、ビジネスとエンジニアが一体で取り組むことが重要になっていく」と補足した。

金融領域の生成AI活用は、“ビジネス価値の創出”が問われるフェーズに

 AWSは、2025年に新たな金融領域の戦略として「Vision 2030」を掲げている。

 2030年に向け、「戦略領域への投資拡大」「新規ビジネスの迅速な立ち上げ」「イノベーション人財の育成」「レジリエンシーの更なる強化」という4つの柱で金融機関への支援策を展開。その中でも、ソフトウェア開発に対する戦略投資と新規ビジネスの創出の領域において、生成AIの適用が進んでいるという。

Vision 2030に向けた取り組み

 ソフトウェア開発の支援においては、東京海上日動システムズも取り組む「AI駆動型開発」を推進中であり、それを実現する開発ツールとして、生成AI搭載の開発アシスタント「Amazon Q Developer」、モダナイゼーションのためのエージェント型サービス「AWS Transform」、そして、仕様駆動開発を支援するエージェント型IDE「Kiro」を展開中だ。

 新規ビジネスの立ち上げにおいては、生成AIサービス「Amazon Bedrock」を中核に、AIエージェントの開発・運用のための機能群「Amazon Bedrock AgentCore」を用意しており、同機能群は東京リージョンでも一般提供を開始したばかりだ。

AI駆動型開発を推進する開発ツール

 AWSジャパンの飯田氏は、同業界の生成AI活用について、2023年の技術検証を経て、2024年に業務適用が始まり、2025年は“ビジネス価値の創出”が問われるフェーズだと説明。「ワークフロー型の業務にAgentic AIの適用が始まり、リサーチ業務や顧客コミュニケーション、データ管理、カスタマーサービスなど、一歩進んだユースケースが登場し始めた」と語った。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 金融事業開発 本部長 飯田哲夫氏

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