東京海上日動システムズ・JPX総研・三菱UFJ銀行が語る現在地
AWSで高度化する金融機関の生成AI活用 AI駆動開発からマルチエージェントまで
2025年11月04日 11時00分更新
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は、2025年10月9日、金融領域における生成AIの最新事例を紹介する説明会を開催。東京海上日動システムズ、JPX総研、三菱UFJ銀行の3社が登壇し、開発環境や新規・既存ビジネスにおける、生成AIの実装例を披露した。
AWSジャパンの金融事業開発 本部長である飯田哲夫氏は、金融業界における生成AI活用について、「技術検証、業務適用のフェーズを経て、2025年は“ビジネス価値”を問われるフェーズに突入している。加えて、アシスタントAIによる単一的な活用から、自律的なエージェントを組み合わせて成果を得る事例が増え始めた」と強調した。
(左から)三菱UFJ銀行 市場企画部 市場エンジニアリング室 Head of Quant Innovation 堀金哲雄氏、JPX総研 執行役員 フロンティア戦略担当 山藤敦史氏、東京海上日動システムズ インフラソリューション一部 兼 戦略企画部 山下裕記氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 金融事業開発 本部長 飯田哲夫氏
東京海上日動システムズ:開発期間を2か月から1.5日に縮める“AI駆動開発”のインパクト
東京海上グループのIT戦略を担う東京海上日動システムズからは、ソフトウェア開発・運用における生成AI活用が共有された。
同領域の生成AI活用は、2023年、設計書からソースコードを自動生成する取り組みから始まっている。保険金支払というコア業務のシステムを対象に、PoCを実施。同システムでは、Javaに近い独自言語「Gosu」が用いられていた。インフラソリューション一部 兼 戦略企画部の山下裕記氏は、「“基幹中の基幹”のシステム、かつマイナー言語で成果が出れば、どんなシステムでも適用できるというコンセプトで挑戦した」と振り返る。
その結果、新規開発で44%、仕様変更で83%の工数削減につながるという評価が得られた。実際に、損害保険系の実案件に適用して、約30%の工数削減を達成しており、2025年度中にはすべての領域に広げていく。ただ、これは開発プロセスの一領域への適用に過ぎず、更なる生産性向上の余地が残っていた。
そこで現在、システム開発と運用業務全体に適用範囲を広げるべく、各プロセスを細かく分解し、効果が期待できる領域から順次適用を進めている。
運用の領域では、AIOpsを検証中であり、ルールベースで障害対応を自動化し、復旧時間の短縮や夜間対応の削減を目指す。未知の障害に対しても、生成AIが過去の障害情報から対応策を提示することで、工数削減に加え、担当者の精神的負担の軽減にも寄与する。
開発の領域においても、AWSの支援と開発ツールによって、AIファーストな開発手法である「AI 駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)」を検証中だ。「すべての開発プロセスにAIを組み込む手法であり、人(開発者)はAIのアウトプットを検証・判断する役割に変わる」と山下氏。
具体的には、AWSのワークショップを利用することで、各システムにおいてAI-DLCによる開発体験を試している。例えば要件定義では、AIが生成した設計書を、ビジネスオーナーとエンジニアがその場で同時にレビューしていくやり方をとり、DevOpsでも2、3か月かかるプロセスを数日まで短縮できる。実際に、損害系システムでの試行では、2か月要していたシステムの開発が、1.5日で完了したという。
山下氏は、「AI-DLCは、ゲームチェンジを引き起こすと実感している」と語り、「直接の競争領域にはあたらないため、さまざまな企業と連携しながらAI-DLCを盛り上げていきたい」と展望を語った。
JPX総研:生成AIとベクトル検索で“開示資料検索”の新サービス
続いて登壇したのは、日本取引所グループでデータ・デジタル事業を担うJPX総研だ。同社が披露したのが、生成AIとベクトル検索を活用した、上場会社の“開示資料”を検索するサービスである。
開示資料は、財務数値から経営状況、資本政策まで、実に様々な種類があり、まさに“企業の説明書”といえる。これらの資料は、投資家が多角的に分析して投資判断をするためのものだが、その量は年々増加。JPX総研の執行役員 フロンティア戦略担当である山藤敦史氏は、「人が1年分の開示資料を読むには、2~3年かかる計算。もはや、人の処理能力を超える情報が日々生み出されている」と語る。
そこで人の処理能力を“補助する”仕組みとして現在構築中なのが、開示資料の検索サイトだ。「このままでは、知名度のある企業にばかり投資が流れ、結果、成長資金が回らないという現象が起きる。約4000社の上場企業に等しく光をあてたい」(山藤氏)
検索サイトは、生成AIとベクトル検索を用いており、「AWS OpenSearch」が質問文から開示資料の類似度をスコアリングし、「Claude on Amazon Bedrock」がスコア上位について回答文を生成する仕組みだ。
自然言語による質問を通じて、キーワード検索では見つけにくい開示資料も、すぐに探し当てられるのが特徴だ。例えば、「業績予想を“開示していない”決算短信」といった否定形の検索や、「配当予想が“50%以上増加した”開示」といった数値を組み合わせた検索にも対応する。さらに、多言語で質問することも可能だ。
また、開示資料はマーケティングの要素が入りづらい情報であるため、多角的な市場調査や競合調査に用いることもできる。「開示資料は情報の宝庫であり、投資目的で利用するだけではもったいない」と山藤氏。
山藤氏は、「金融系のサービスは利用者に負担を強いることが多い」と述べ、ユーザー体験の向上を念頭に改良を図っていくとする。「日本の市場情報の“集積地”となるサービスにしていきたい」と意気込みを語った。

















