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インタビューで対象者の特徴や思考パターンをモデリング

ベテラン社員の思考、AIでコピーして働かせます 博報堂が挑む“思考の継承”プロジェクト

2025年10月08日 18時00分更新

文● モーダル小嶋 編集●ASCII

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 博報堂テクノロジーズは10月6日、生成AI技術を応用して人間の「思考」を継承するAIクローン「Clonatica(クロナティカ)」の提供を開始したと発表した。

 専門家の暗黙知や判断基準をAIとして再現し、組織で活用できるようにする点が本サービスの最大の特徴。

 同社によると、従来のAIは主にルーティン業務や定型処理の自動化に強みを持っているものの、熟練者の経験やノウハウに依存する高度業務への対応には限界があったという。

 そうした課題に対し、同社はマルチAIエージェント「Nomatica」で培ったAIエージェントの開発・運用ノウハウを応用し、「思考」を再現するAIクローンサービスとしてClonaticaを開発。

 従来のAIクローンが外見や音声の再現に注力していたのに対し、Clonaticaは見た目に加えてその人物の内面、すなわち「思考」も独自のクローン技術によって再現している点が特徴だという。

 Clonaticaは、対象者に対するおよそ2時間のインタビューをもとに、思考パターンや判断基準をモデル化する方式を採用している。

 提供される機能としては、問い合わせ対応や意思決定支援において対象者と同等水準の判断を支援できるように設計されており、これにより対象者の作業時間をおよそ50%削減できるという想定効果も示されている。

 また、職や異動により失われがちな暗黙知を保存・継承することで、新人教育や技術継承の効率をおよそ30%高められる可能性があるとしている。

 さらに、経営層の意思決定支援用途では、承認や相談対応の待機時間を解消し、意思決定速度をおよそ3倍に加速させる効果も見込まれている。

 本システムはSlackなどの社内コミュニケーションツールと連携して自然な対話形式で助言を提供でき、実業務に取り込みやすく設計されている点も特徴とされる。

 技術面では、インタビューで得られた価値観や発話様式、業務特有の思考プロセスなどを抽出しモデル化するとともに、対話ログを通じて継続学習・アップデートを可能とする方式を採用しており、このプロセスは特許出願中であるとされている。

 今後の展望として、博報堂テクノロジーズは2026年春までに経営層向けの意思決定支援や製造業における技術継承分野での本格展開を計画している。

 中長期的には、コールセンターなどでの顧客対応業務にも展開する意向を示している。コールセンター用途においては、自動化率80%の達成を目指し、日本企業の生産性向上に寄与することを目標としている。

 Clonaticaは「思考そのもの」をAIに取り込むというコンセプトを掲げ、企業における知識継承や判断支援を新たなレベルで支援しようという試みといえよう。

 ただし、発表段階では効果試算や導入事例に基づく数値が示されているものの、実環境での採用実績やその際の限界・課題については詳細には触れられていない。サービスの実運用における信頼性や、倫理・プライバシー面の対応にも今後注目が集まるだろう。

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