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石川温のPCスマホニュース解説 第251回

au対楽天 衛星通信で火花

2025年09月08日 07時00分更新

文● 石川温

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 KDDIは、「2025年夏」に始めるとしていた衛星とスマホの直接通信サービス「au Starlink Direct」のデータ通信を8月28日に開始した。今年は6月から猛暑が続いていたが、KDDIにもここに来て、ようやく夏が訪れたようだ。

 これまではSMSやRCS、iMessageなどのメッセージ系サービスしか使えなかったが、データ通信に対応したことで、アプリが使えるようになる。ただし、どんなアプリでも利用できる、というわけではなく、サービス当初は19のアプリが使えるのみとなっている。

 衛星であるStarlinkと直接、データ通信を行うには、OS側が衛星モードに対応しており、アプリも衛星モードというのを認識する必要がある。実際、今対応している機種はグーグル・Pixel 10シリーズと、サムスン電子のGalaxy Z Fold 7とFlip 7のみだ。

 そのため、アプリ事業者は、きちんと衛星モードで作動するように手を加えなければならないようだ。

 サービス開始時は登山や釣り、GoogleマップやXなどが利用できるが、KDDIでは開発者向けサイトを近日、公開するということで、今後はアプリが増えてくることだろう。

楽天モバイル、対抗心むきだし

 実際のところ、衛星とスマホの直接データ通信は「世界初」ということで、KDDIが関係各所と地道に調整をしてアプリを集めてきたというのが現状だ。

 Starlinkとスマホの直接通信は10月にもアメリカ・T-Mobileで開始となる。アメリカでサービスが始まれば、アメリカ発のアプリやサービスも対応してくることだろう。

 そんななか、「au Starlink Direct」に対抗心をむき出しにしているのが、アメリカの衛星ベンチャーであるASTと組んで2026年第4四半期に衛星とスマホの直接通信サービスを始めようとしている楽天モバイルだ。

 9月1日、メディア向けに「災害対策と衛星通信に関する勉強会」を開催。Starlinkとの違いをアピールした。

 楽天モバイルのサービスは223平方メートルの巨大なアンテナを飛ばし、衛星から地上にビームを多数照射して、面をカバーするものだ。1つあたりの衛星のアンテナは巨大だが、その分、飛ばす衛星の数は数十基に留まる。

 一方、Starlinkの方はアンテナこそ小さいものの、600基近い衛星が地球の周りを飛んでおり「数」の力でエリアをしている。

 また、Starlinkはサービスに対応したスマホで使えず、対応アプリも一部のアプリに留まる。

一方で、楽天モバイルの衛星サービスは「ほぼすべてのスマホで動画視聴やビデオ会議も利用できる」としている。

 ASTの衛星からスマホに向けて飛ばす電波は、勉強会では明らかにされなかったが、同日に総務省で実施された有識者会議では「700MHzのプラチナバンド」という資料が提出されていた。

「衛星でエリア急拡大」は望み薄

 そもそも楽天モバイルは「プラチナバンドを持つ他社に比べて、エリア展開にしにくい」とごねて、かなり無理矢理、総務省からプラチナバンドを獲得した経緯がある。

 「衛星を使って、プラチナバンドで一気に全国的にエリアを広げる」「KDDIに借りているローミングエリアを衛星に置き換える」という使い方もあるようだが、楽天モバイルとしては、正直、そこまでの活用ができるのか、迷っているようだ。

 実際、楽天モバイルが持つプラチナバンドは3MHz幅ととても狭い。データ通信を大量に使われているKDDIローミングを衛星からのプラチナバンドで置き換えようとすると、当然のことながら、周波数帯が狭くなり、通信速度が遅くなることが予想される。

 データ通信が大量に使われているエリアは、地道に地上の基地局を作り、KDDIローミング依存から脱却するのが正攻法だ。

 衛星からの電波によって、エリア化できるのは山間部など、普段、人があまり居ないような場所が中心になりそうだ。また、当然のことながら、地震や津波など、地上の基地局などがダウンした際、衛星からの電波によって、エリアを復活させるという災害での活用が見込まれる。

 「衛星で一気に全国エリア化」と夢は膨らむが、実際のところはあまり過度に期待しない方がいいだろう。

使えるサービスになるのはしばらく先

 サービス開始当初、衛星の数が少なければ、上空に衛星がいない時間が発生し、「つなぎたくてもつなげない時間」が起こるのは間違いない。

 au Starlink Directも、今年4月のサービス開始時は、衛星とつながる時間が短く、正直言って、使い物にならなかった。7月になって、ようやく衛星からの電波が増えたことで、なんとかまともに使えるようになったほどだ。

 StarlinkもASTもいまは「いかに早くサービスを提供するか」で各社が焦っている段階だ。ユーザーとして、使えるサービスになるのは、しばらく熟成する時間が必要なのだろう。

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