レコード会社がライセンス契約を検討
一方で、注目されるのはやはり著作権問題です。
2024年6月に、アメリカレコード協会(RIAA)とユニバーサルミュージックグループ、ワーナーミュージック・グループ、ソニーミュージックグループの大手レコード会社が共同で、SunoとUdioに対して著作権侵害を訴える裁判を起こしました。レコード会社と音楽生成AI会社との意見は真っ向から対立しています(参考:AIは著作物の「フェアユース」と言えるのか 音楽業界vs.ミュージック)。
ところがそこに、新しい動きが出てきました。6月1日にブルームバーグ紙が報じたところによると、レコード会社は、ライセンス契約による解決を模索し始めているとのことです(Record Labels in Talks to License Music to AI Firms Udio, Suno | Bloomberg)。
報道によれば、トレーニングデータに使用する楽曲に対するライセンス料を要求し、また少額の株式取得を提案。さらに、AI作成楽曲の元となる楽曲を追跡し、権利者に収益を分配する仕組みを提案しているとのことです。ただし、まとまった場合には、生成AI音楽の利用が容易になることを意味していますが、交渉はまだ初期段階で、まとまるかどうかは不明のようです。
音楽生成AI企業にとっては、高額なライセンス料や、学習データに含まれることを望まないアーティストをどうするか、そもそも生成された曲が何の楽曲に由来するのかを追跡することは技術的に不可能に近く、まとめるには様々な課題を抱えています。これらの条件が通った場合には、現在のような低価格で提供することは不可能でしょう。
また、レコード会社がリミックス機能といった一部機能実装への拒否権を持つといった条項も含まれているようで、この辺もSuno側としては飲めない条項ではないかと思えます。
その一方で、Sunoは2月にアマゾンの次世代音声アシスタント「Alexa+(アレクサプラス)」との提携を発表。自らの立場を強化する戦略を進めています。この機能はまだ日本では展開が始まっていませんが、ユーザーが音声でプロンプトを伝えると、オリジナル楽曲が作れるようになっています。
さらに、プロの現場でも使われる事例が日本でも登場し始めました。
5月に公開された映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の楽曲制作に、音楽生成AIを使っていることを、劇伴を担当した菊地成孔氏が明らかにしました。この映画だけでなく、前作の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』でも使われていたようです。菊池氏の新音楽制作工房では、Sunoなどの音楽生成AIを使っての実験が進められています。
6月14日に、菊池氏はXに長文を投稿しました。過去の音楽に関するナップスターといった著作権裁判などに触れながら、「ビッグビジネスのステージでは<ディールの一環として相互訴訟しておいて、水面下でネクストビジネスの落とし所を探す>という動きは、音産に限らず一般的です。(中略)しかしこれ結局、win-winの同意/和解に向かうしか方法はあり得ません」(菊地氏)と予測されています。その上で、「我々は現行利用規約に基づく合法性を前提とした、実務的判断の下、使用しているだけ」(菊地氏)との立場を明らかにしました。
つまり、現在進められている裁判によって、AI技術の完全排除が目指されるということはなく、いずれ和解による共存に向かうと考えているということ。また、法的な点に配慮しつつ合法的に使用しているというのです。

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