このページの本文へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第259回

一部署での業務改善が、やがて社内ベンチャー立ち上げにつながった ―データセレクト・森氏

「楽して働きたい野望」が取引先まで巻き込む BPO企業がkintoneを使い倒して得たもの

2025年05月07日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 「突然ですが、わたしには野望があります。それは『もっと楽して働きたい』というもの。社会人として大変ふざけた野望だとは思うんですが、本気です」

 2025年4月15日にZepp Nagoyaで開催された、kintoneユーザーの事例共有イベント「kintone hive nagoya」。2組目に登壇したのは、コールセンター運営やDM発送代行などの業務アウトソーシングを請け負うBPO企業、データセレクトの森琢弥氏だ。

 「ただ、わたしが『楽して働きたい』と言うのは、自分だけが楽したいということではありません。もしわたしだけが楽をしていたら、会社は当然わたしをクビにしますよね。また、うちの会社だけが楽をして儲けていたら、ほかの会社さんが潰れてしまいます」

 森氏が語ったのは、同社が10年前に導入したものの、特定用途にしか活用されていなかったkintoneの話だ。コールセンターの業務改善を進めるべくそのkintoneに目を付け、社内全体へ、さらに取引先と業務改善の輪を広げていった。その結果「社内ベンチャーの立ち上げ」という思わぬ成果も生まれたという。

データセレクトでシステム開発を担当する森琢弥氏。座右の銘も「楽するために努力する」だ

「週に15時間」の時短を実現、100人分のシフト調整を大幅に効率化

 データセレクトは、愛知県豊明市に本社を置き、東京に支店を持つBPO企業だ。コールセンター運営やテレマーケティング、DM発送代行、データ入力代行、キャンペーン事務局運営など、幅広いアウトソーシング業務を請け負っている。

 そのデータセレクトに、森氏は2021年に入社した。コールセンター部門に配属されたが、そこで待っていたのは「とんでもない惨状」だったと振り返る。

 同社のコールセンターには、パート勤務のオペレーターがおよそ100人いる。管理者(リーダー)は毎週、オペレーター全員から希望を聞いたうえで勤務シフトを作成し、決定したシフトを全員に通知していた。

 ただし、100人からのシフト希望の提出は「メールで」、またシフト調整はリーダーがExcelの表を使って「手作業で」行っていた。決定したシフトも、オペレーター個々人に「メールで」知らせる手順だった。「とんでもない工数で、みんなが悩んでいました」(森氏)。

従来のコールセンターシフト管理業務。森氏はこれを改善したいと考えた

 この“惨状”を改善できないか。森氏が思いついたのが、2014年に導入されたものの、特定の業務でしか活用されていないkintoneを使うことだった。もっとも、当時はまだkintoneに対する理解が乏しく、すぐには業務改善をスタートできなかった。それでも森氏は「kintoneを使えば何とかなる」と信じて、その習得にはげんだ。

 転機は1年後、2022年に訪れた。森氏いわく、「Excelを愛していて、kintoneにはまったく興味がない」岩佐氏の登場である。岩佐氏は、ExcelやVBAを使ってコールセンターのシフト管理業務を効率化しようと考えていたが、コストや工数、作業フローの変更などが障壁になっていた。森氏はそんな岩佐氏に声をかけ、一緒に業務改善に取り組むことになった。

共に取り組む仲間、岩佐氏が登場。ただし「kintoneにはまったく興味がない」……

 シフト管理業務の改善に取り組むうえで、森氏が気をつけたのが「変えるべきでないところ(業務)にはこだわらないこと」だったという。具体的には、管理者(リーダー)がExcelでシフトを作成する作業部分は「このままのほうがいい」と判断し、そのほかの部分を改善することにした。

リーダーがExcelを使ってシフトを組む作業は「従来のまま残すのがベスト」と判断した

 まず、100人のオペレーターが毎週提出していたシフト希望メールは、トヨクモの「FormBridge」で作ったWebフォームに入力してもらうかたちに切り替えた。これにより、各オペレーターが入力したデータを直接、kintoneに保存できるようになった。

 kintoneに保存されたシフト希望データは、岩佐氏が組んだExcelマクロにより、自動的にExcelの表として出力される。リーダーはこのExcel表を使って、これまでどおりの手順でシフト表を作成する。

 完成したシフト表は、岩佐氏のマクロでふたたびデータベース化し、kintoneにアップされる。各オペレーターは、トヨクモの「kViewer」を使って、kintoneに保存されたシフト表を好きなタイミングで確認できる仕組みだ。

kintoneを組み込んだ改善後の業務フロー

 森氏は「すべてがkintoneに収まるかたちできれいにまとまり、手作業を大幅に削減できました」と語る。具体的には、ほかの業務もこなしながら「わずか8営業日」の開発作業で、「週に15時間、月で60時間の工数削減」という大きな改善効果が得られたという。

取締役会の説得には「実物に勝るものなし」、一気に社内展開を進める

 コールセンターの業務改善に手応えを感じた森氏と岩佐氏は、もう1人の“kintone愛好家”水原氏を加えた3人で「kintone Reborn Project」を立ち上げた。データセレクトが10年前から導入しているkintoneを再構築し、そのほかの部署でもkintoneを“使い倒して”DX実現を目指す取り組みだ。

 プロジェクトで掲げた目標は「売上や原価などのデータをkintoneに集める」「たまったデータを活用できるようにアプリ連携する」の2つ。ただし、その実現のためには、kintoneのコースのアップグレード、各種プラグインの購入がどうしても必要であり、その費用を捻出するには取締役会の承認を得る必要があった。

 取締役たちをどうすれば説得できるか。森氏は「やはり実物に勝るものはない」と考え、プラグインの無料体験期間を利用してサンプルアプリを作成。そのアプリを見せることで、無事に取締役会の承認を得ることができた。

 こうして2024年4月には、kintoneの社内ポータルを刷新して本格的な“再構築”に乗り出した。Excelファイルを直接アップロードするだけでkintoneにデータを取り込めるM-Solutionsのプラグイン、データを簡単に可視化/ダッシュボード化できるメシウスのプラグインなどを組み込み、データ入力や会議資料作成といった業務を効率化していった。

kintoneに取り込んだ売上データをダッシュボードで可視化し、毎月発生していた会議資料作成の業務をなくした

 加えて、各部署のメンバーが自ら業務改善を進められるように、kintoneの社内研修も行った。ここでは、事前に業務内容をヒアリングしておき、業務に沿ったサンプルを作るという取り組みも行い、「自身の業務を改善、または改善提案できるようにする」ことを目指した。研修を終えてすぐに、20個以上のアプリを作り上げた部署もあったという。

 「kintone Reborn Projectは、その後も継続中です。今では会社全体を巻き込んだ業務改善になっていて、もはや何がどれだけ効率化されたのかもわからなくなりました(笑)」

取引先との情報共有にもkintoneを活用、社内ベンチャー立ち上げへ

 データセレクトの業務改善の取り組みは、さらに「社外」へと拡大する。同社に業務委託している取引先のkintoneアカウントを作成し、情報共有手段としてkintoneのアプリやスレッドを使うことにしたのだ。

 たとえば従来、コールセンター業務では、一日の電話受付時間が終わってから残業し、Excelを使ってレポートをまとめ、メールで取引先に報告していた。これをkintoneを使った情報共有に切り替えることで、取引先はいつでも最新の情報が見られるようになり、データセレクト側でもレポートの作成/送付をなくすことができた。

事例のひとつとして、中日ドラゴンズファンクラブの運営支援業務を紹介した。問い合わせ(電話、メール)や新規入会といった情報が、取引先とkintone上で共有されている

 この取り組みをさまざまな取引先に広げているうちに、取引先から「うちでもkintoneを使いたい。導入を伴走支援してもらえないか」といった声が上がるようになった。取引先に“生きたkintone”を使ってもらううちに、kintoneの良さを自然と広めていたのだ。そこで、データセレクトでは2024年秋に、サイボウズのオフィシャルパートナーとなった。

 勢いはここでとどまらなかった。社長の発案で、森氏、岩佐氏、水原氏の3人は社内ベンチャー「スタジオ どーせなら」を立ち上げることになった。森氏は「どーせならもっと効率的に、どーせならもっと楽しくと、どーせならポジティブな出来事を実現していきたいと考えて、この社名を付けました」と語る。

 まとめとして森氏は、冒頭で語った「もっと楽して働きたい」という野望は、自分だけでなく「皆が」楽になることを目指したものであり、これまでの活動で「この野望に、確実に近づいている」と語った。

 「皆さん自身の会社でも、効率化を進めていただいて、ぜひわたしの“野望”に協力していただけませんか?」(森氏)

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事