VL-Busの急速な発展が、逆にVL-Busの寿命を縮める
連載107回でも触れたが、VL-Busの場合は速度とスロット数の制限がけっこう厳しい。理論上のVL-Busの動作周波数の上限は66MHzになっているが、電気的には50MHzが事実上の上限とされ、40MHz未満で3スロット、40~50MHzで2スロット、50MHz以上は1スロットというのがVL-Bus 2.0での現実的な推奨構成だった。
ところが市場には50MHzで3スロットや66MHzで2スロットなど、明らかに推奨を超える構成のマザーボードが大量に出回るようになった。またビデオカードやSCSIカードなどは基本的にカード上に1つのコントローラーしか載らなかったため、まだバスの負荷が低い方だったが、Multi-IOカードでは1枚のカード上に複数のコントローラーを搭載するものがあり、これはVL-Busの駆動能力に猛烈な負荷を掛けた。
結果カード1枚だけならちゃんと動作するのに、複数枚のカードを同時に装着すると動かないという問題が頻発した。ほかにも、AとB、AとC、あるいはBとCの組み合わせは動いてもAとBとCは同時に使えない、マザーボード1では動くのに2では動かないなど、もう相性問題としか説明しようのない問題が発生した。
この時期、悪い意味で一番有名なマザーボードと言えば、Diamond Multimediaが最初に出したマザーボード製品であるFastBus VLBだろう。最大38MHzまでFSBを引き上げられるマザーボードで、いろいろ設定項目も多くてうまくすればギリギリまでマージンを詰められる一方、かなり暴れ馬というか動かない方が多いという代物であった。
筆者も1枚所有していたが、とにかく安定動作に程遠かった記憶しかない。VL-Busを搭載したマザーボードは複数枚(おそらく10枚近く)購入したはずだが、ここまで手を焼いたマザーボードはなかったと記憶している。当然メーカーもサポートに手間を費やすことになり、そのあたりで懲りたのか二度と同社はマザーボードに手を出すことはなかった。
それでもVL-Busは2000年とは言わないまでも、1990年台後半のそれも末期くらいまでは使われた。後継となるPCIは1992年に発表されたものの、当初はPentiumのみの対応だったし、いろいろ問題も多かった。そもそもPCIの仕様そのものにミスや記述が足りないところとかも多く、このあたりが解決し、まともに利用できるようになったのはインテルがTritonことIntel 430FXチップセットをリリース、これを搭載した製品が市場に出回るようになってからである。
ただインテルはi486向けのPCIチップセットはリリースせず、こちらはVIA Technologiesなどの互換チップセットベンダーからの製品を待つことになったが、こちらも当初はいろいろと完成度に問題があった関係でやはりVL-Busの方が貴ばれた。
皮肉なことにその完成度が高まる頃には、CPUの市場にSocket 5/7の互換CPUが大量にあふれることになり、もうi486はあまりかえりみられなくなってしまっていた。けっきょくi486と一緒にVL-Busは市場に投入し、i486の引退と歩調を合わせるように市場から消えていくことになった。

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