VL-Busの信号はi486の信号そのものなので扱いが容易
VL-Busの信号とi486の信号の違いは、わざわざ仕様書に章が設けられているが、実はそれほど多くない。さすがに286のマシンは考慮していないと思うのだが、386SXベースのマシンは当時少なくなく、ところが386SXはデータバスが16bitに減らされている。
またi386とi486ではこの16bit転送における信号の振る舞いが若干異なるので、ここはi486に寄せるという話と、バス上に複数のバスマスターが存在する場合の調停にからんで、いくつかの信号線の扱いが異なること、システムリセットの信号にまつわる注意点、それと転送サイクル終了に関する扱い(DMA転送をする場合の配慮を追加)といった程度になっている。
ちなみにVL-Busはi486の信号をベースにしているものの、仕様そのものは複数のCPUに対応することを考慮している。実際仕様書の先頭にも「非x86 CPUのサポートは、ブリッジチップを介してVL-Bus信号を抽象化することで容易に実現できる。これにより、同じ周辺機器をx86プラットフォームと非x86プラットフォームの両方で使用可能である」とサラッと書いてある。
もっともそのブリッジチップをどこかが出したか? というと、筆者が知る限り記憶にない。非x86でVL-Busを搭載したシステムをどこかで一度見かけたことはあるのだが(もうそれがなんだったかは記憶がないのだが、MIPSかPowerPCのどちらかだったはず)、変換をどう実装していたかまで記憶していない。おそらくFPGAかなにかで構成したのではないかと思う。
また、将来の拡張用ということで64bitモードのサポートも用意されていた。すでにVL-Bus 2.0の仕様書第6章には、"64-bit VL-Bus"という項目が用意され、信号の定義やタイミングなどが記載されているのだが、肝心の物理形状は下の画像である。
VL-Busの物理的なコネクターは16bit MCAのものを流用しているが、64bitの方は32bit MCAのコネクターを利用する予定で、その場合カードの長さは32bitのものより2インチ(5.08cm)長くなる予定だった。これは別にPentium以降の64bitデータバスを想定していたというよりも、将来は32bitから64bitにデータバスが広がるのが自然と考えられており、それに向けて用意をしておいたのだろう。
ただ実際には64bit VL-Busは市場にまったく出てこず、Pentiumマシンはバスバッファを介して64bitバスを32bitバスに変換するという面倒な作業を強いられることになった。
このVL-Busは瞬く間に普及することになった。なにせi486の信号そのものだから、扱いはそう難しくないしレイテンシーも低い。市場ではi486マザーボードが主流であったが、i386DX対応でVL-Busを搭載したマザーボードも当時秋葉原でいくつか見かけている。性能の方も劇的に向上しており、特にビデオカード周りは大幅に性能が改善した。
まだ今ほどベンチマークが普及していたわけではないが、3DBench(この動画の冒頭で実行しているSuperScape開発のもの)は比較的よく利用されており、通常のISAのビデオカードでは10~20fps動作だったものがVL-Busだと30~40fpsまで性能が引きあがった。
秋葉原のショップでは、VL-Busを搭載したショップブランドPCが軒並みこの3DBenchをデモで動かしていたという時代である。VL-BusもまたISA/EISAと同じくロイヤリティやライセンスを必要としなかったため、各社一斉にこれに飛びつき、急速にVL-Busに対応したマザーボードやビデオカード、SCSIカード、各種I/Oカードなどが市場に出回ることになった。
ただこの急速な発展が、結果から言えばVL-Busの寿命を縮めた面もあるだろう。製品があふれたことで、競争が激しくなる。そこで生き残るためには差別化が必要だが、コストを下げるのは身を削ることになるし、高機能化と言ってもなにしろバスだから機能を勝手に増やすわけにはいかない。結果として過激化の方向にシフトすることになる。

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