MCAに反発した互換機メーカーが結束
9社共同で高速なバス仕様EISAを開発
IBMによるMCAの採用と、その高額なライセンス戦略はAT互換機メーカーの反発を招くことになった。当たり前で、自分たちのビジネスをIBMが潰しにかかろうとしているからだ。とはいえ、ISAが性能的に不十分というのは互換機メーカーもよく理解していた。
特に当時その先頭を突っ走っていたCOMPAQは自前でFlexアーキテクチャーという高速な内部バスを自前で構築するなどしていたので、技術的にもその必要性があることはわかっていた。そのため以下の状況となった。
- 「高性能なMCAがこれからは必要」というイメージをユーザーに植え付けられてしまうと、今後の売れ行きに影響しかねない。
- 実際にISAを超える性能のバスが今後は必要になることも事実。
- だからといって高額なライセンス料を支払ってMCAを利用するのは、ビジネスとして成立しない。
上の状況を打開するためには「MCAに代わる高性能バスを開発すればよい」という解が導き出されるのは当然である。
そして共通の敵がいる場合、本来ならライバル同士であった企業もまとまりやすい。音頭を取ったのはCOMPAQで、ここに当時北米市場で有力だったAT互換機メーカー、具体的にはAST Research・Compaq・Seiko Epson・Hewlett-Packard・NEC・Olivetti・Tandy・WYSE・Zenithの9社(これはGang of Nine:9人のギャングと呼ばれた)が共同で高速なバス仕様を開発することを決めた。
1988年末には早くも最初の仕様が公開されている。ちなみに今だったらEISA SIGやEISA MSA、EISA Consortiumなど、そんな名前を付けた標準化団体を設立し、この中で標準化作業や仕様の配布などを実行しそうなものだが、この当時はそういう風潮もなく、9社が集まって仕様を策定したものの、その仕様書は出版社(筆者が保有しているものはBCPR Service, Inc.から提供された)から有償配布された。
ただこの有償というのは要するに印刷代や配布代であり、仕様そのものはパブリックドメインとして配布された格好だ。今ならインターネット経由でPDFをばらまくだろうが、当時はこれが一番リーズナブルなものだった。
結果から言えば、EISAは見事にMCAの野望を打ち砕くことに成功した。バスの規格自体はMCAに比べればかなり制約があったし、ピーク性能はともかく実効性能で言えばMCAとは比較にならなかったのだが、どのみち当時の市場ではその実効性能をフルに生かせるような拡張カードはまだ存在しなかった。ただGang of NineはEISAで十分MCAと競合できると声高に主張したし、ユーザーもこの路線を支持した。
Gang of Nineが巧みだったのは、インテルの協力を得たことだ。インテルは1989年にEISA対応のIntel 82350チップセットを発表、1991年には出荷を開始している。もうこの時点でIBMの負けは決まったようなものである。
結局この後EISAは、完全にPCIが普及する1994年くらいまでは特にハイエンド向けPCおよびサーバー向けの主力バスとしての座を獲得。周辺機器メーカーもこれに対応して、例えばAdaptecのAHA-1742のような製品をリリースし、広くユーザーに受け入れられた。
さすがにPCIが本格的に普及するようになると市場からどんどん消えていったが、それでも1990年代末まではかろうじてショップにも製品が並んでいたと記憶している。ISAに比べると寿命は短かったが、それでも10年くらいは利用されたと思う。

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