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「忘れかけた記憶」をAIで生成 グーグル、"合成記憶"で認知症患者の記憶想起を支援

2025年04月25日 11時15分更新

文● サクラダ 編集●飯島恵里子/ASCII

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アルツハイマー病を持つエドワード氏が研究プロジェクトに協力した

 グーグルは4月24日(現地時間)、AIとアートを活用し、認知症を持つ高齢者の記憶想起を支援する新たな研究プロジェクト「Synthetic Memories」について発表した。

AIが生成する「過去の記憶」で記憶療法を支援

 この取り組みは、アートスタジオDomestic Data Streamersの研究者、AGE-WELLのサイエンティフィック・ディレクターでありトロント大学教授のAlex Mihailidis氏、そしてGoogle Arts & Cultureが共同で進めている。人間のアイデンティティー形成や過去とのつながりにおいて重要な役割を果たす「記憶」だが、世界中の何百万人もの人々が認知症によってその繋がりを失いつつある。Synthetic Memoriesは、アートとグーグルの画像・動画生成AIモデルのような生成AIツールが、高齢者との治療的な関わりに役立つかどうかを探る試みだ。

 

 

 このアプローチは「レミニッセンスセラピー(回想療法)」に基づいている。これは、認知症を持つ人々が自身の個人的な経験や記憶を共有することを促す療法で、従来は写真や音楽、ゆかりの品などを小道具として用い、気分の改善、精神活動の刺激、認知機能の向上を図ってきた。

 Synthetic Memoriesでは、ここに新たな小道具として「AIが生成する合成記憶」を用いる可能性を探求する。特に、具体的な記録が乏しい、あるいは写真や音楽といった視覚的・聴覚的な補助が限られている過去の記憶に対して、AIがより詳細でパーソナライズされた想起の手がかりを生成することで、レミニッセンスセラピーを強化できる可能性がある。AIによって生成されたこれらの視覚情報は、既存の療法技術を補完するものであり、繰り返し訪れたり探求したりすることで、よりインタラクティブな体験を提供することも意図されている。ただし、これらの視覚情報は過去の完璧な再現を目指すものではなく、あくまで記憶の想起や会話のきっかけとなる「プロンプト(手がかり)」として位置づけられている。

合成記憶の作成と微調整のためのプロンプトを作成

 研究では、アルツハイマー病を持つ研究参加者のエドワード氏に協力してもらい、彼の個人的な記憶の収集から始めた。インタビューを通じて過去の詳細な描写を集め、それらをグーグルの画像生成ツール「ImageFX」や動画生成ツール「VideoFX」に入力。さらに追加の指示を与え、記憶の本質を捉えつつも夢のような質感を持つ画像や動画を生成した。生成された「過去の記憶」はエドワード氏と共に選択・調整され、彼が納得する視覚情報になるまで練り上げられた。その結果の一つとして、友人とスペインの道端でヒッチハイクをした記憶を反映した画像が生成された。この画像は、彼が描写した革のジャケットを着てリュックサックを背負っているといった詳細を、彼のフィードバックを取り入れながら反映したものだ。

合成記憶のコラージュ

 このイニシアチブは、記憶、AI、そして芸術的表現の交差点を探ることで、レミニッセンスセラピーに新たな可能性を開くものだ。研究が進むにつれて、テクノロジーと創造性がどのように連携し、記憶やストーリーテリング、そして人と人との繋がりをサポートできるか、より深く理解することを目指しているという。この研究は、Google Arts & Cultureが芸術が健康とウェルビーイングに果たす役割を探るいくつかの取り組みの一つである。

 レミニッセンスセラピーは強力なツールだが、50年、60年、あるいは70年も前の記憶となると、それを裏付ける写真や品物が存在しないことが多い。この研究は、そうした具体的な記録がない古い記憶に対して、パーソナライズされた視覚的な手がかりをAIが生成することで、そのギャップを埋める手助けができるかを探るものだ。認知症を持つ人々との関わり方をよりダイナミックにし、彼らの過去との繋がりを支援する可能性を秘めている。

 AGE-WELLのAlex Mihailidis教授は、「レミニッセンスセラピーは強力ですが、古い記憶には具体的な写真や物がないことがよくあります。この研究は、AIがそのようなギャップを埋め、認知症を持つ人々が過去と繋がるのをよりダイナミックに支援できるかを探るものです」と述べている。また、Domestic Data Streamersのアーティスト兼ディレクターであるPau Aleikum Garcia氏は、「Synthetic MemoriesでAIと創造的に取り組むことで、個人の物語を視覚化する新しい方法を探求できます。これらのツールが、記憶された経験のニュアンスを具体的で視覚的な形に変換するのにどのように役立つかを見るのは魅力的であり、記憶、アート、テクノロジーの間に協力的な道を開きます」とコメントしている。

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